官衙・集落と大甕
奈良文化財研究所では、古代官衙と集落に関する研究集会を平成8年から継続しています。この研究集会は、全国の官衙や古代集落に関心のある研究者が一堂に会し、律令国家を構成するさまざまな遺跡、遺構、遺物を対象に、毎年一つのテーマを設定し、さまざまな角度から掘り下げる学際的な研究集会です。
2014年より「官衙・集落と土器」と題するシリーズを立ち上げ、古代の都城、地方官衙、集落から普遍的に出土する土器や土製品を対象として、複数回に分けて議論を重ねています。
昨年の第22回研究集会では大容量の貯蔵専用器である「大甕」をテーマに取り上げました。大甕は従来調査や研究の対象として注目される機会が少ない遺物ですが、ありふれた出土遺物の一つであり、官衙や集落での営みに必要な道具であったと考えられます。
研究集会では、都城や各地の官衙、集落から出土する大甕の組成や遺構との関係、使用痕跡などに注目した意欲的な研究報告がおこなわれました。また討論では、大甕に注目することで新たな古代社会の側面を引き出すことができるとの見通しが得られ、そのためにはどのような調査・整理・報告をおこなえばよいのかなど、多くの論点について議論が交わされ、充実した成果を挙げることができました。
この度、その研究成果をまとめた研究報告が完成し、皆様にお届けできる運びとなりました。本書の執筆に当たられました研究報告者をはじめ、研究集会に参加された皆さまに厚く感謝申し上げるとともに、本書が広く活用されますことを期待します。
奈良文化財研究所は、これからも古代官衙・集落遺跡の調査研究から古代国家や社会の歴史的特質をあきらかにするべく、新たな研究課題を開拓し、全国の研究者と連携しながら、研究集会を継続したいと考えています。
今後とも古代官衙・集落研究会の活動に対して、皆様のご支援とご協力を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。

2019年12月
独立行政法人国立文化財機構
奈良文化財研究所長
松村 恵司