文化遺産の保存と活用 仕組と実際 増補版
第二版第一刷 増補版の出版にあたって


 二〇二一年に執筆した時点から約五年が経過し、その間、法律改正や新たな施策の打ち出しがあり、当然のことながら各種データは変わっています。また、この間自分自身が東京国立近代美術館に勤務することとなり、博物館経営の現場において考えたことが多くありました。また、美術館が所有する重要文化財建造物「旧近衛師団司令部庁舎」の保存活用計画の策定にも関わりました。これら五年間の公私にわたる変化については記述を加え、データを更新しましたが、事例については、ほとんど手を加えませんでした。多少古くなってはいますが、当時取材をして丁寧に書きましたので、そのままの掲載としました。
 主な変更点は次のとおりです。
 ・博物館法の改正
 ・重要無形文化財の対象として「生活文化」分野を追加する基準の改正
 ・文化財の匠プロジェクトの実施
 本来ならば、もう少し書き加えたかった事項が二つあります。一つは文化遺産の防災についてです。(独法)国立文化財機構の「文化財防災センター」が中心となって防災体制が充実してきています。能登地方の被災自治体が「捨てないで」キャンペーンを行ったというエピソードを聞き、災害時に文化のことが堂々と語られるようになってきたことを実感しました。最近学んだ「フェーズフリー(平時と非常時の境目のないサービスやモノをデザインしていこうという考え方)」は、まさに文化遺産保護にあてはまるのではないかとも思っています。
 もう一つは文化遺産に関わる行政のDX化です。いくつかの事例を見ていて、他の行政分野に比べて遅れているのではないかと感じましたが、自分自身が得意な分野ではなかったため、詳しく分析することができませんでした。
 さて、この五年間で、国の考え方として「文化と経済の好循環」が強く言われるようになりました。これは、令和三(二〇二一)年に設置された文化審議会文化経済部会の主要テーマです。今後の日本経済を見たときに明るい兆しが見えるのはコンテンツ産業、観光や食など文化関係の領域であるということと、国の厳しい財政事情の中で文化予算の確保が困難であるということが背景にあります。文化と経済の間には密接な関係があり、大きなときの流れの中で好循環が形成されることは当然であると、私も思います。ただ、現状をみると、「好循環」の合言葉の下、各々の組織が自身に必要な資金を自身で稼ぐように求められているようです。これでは、儲かる(人気のある)ことしか行われなくなって、実験的な取組や長期的な活動はできなくなります。その結果、国全体の文化がどのような道をたどるかは一目瞭然でしょう。一市民の私にできることは少ないですが、豊かな未来のために、これからも文化遺産の次世代への継承に関わっていきたいと思います。