脳を知る・創る・守る 4
最初に脳とコンピュータの基本的な違いを中心に述べ、次に、私どもが現在取り組んでいるさまざまな模型を使った研究を紹介します(図1)。
光計測による脳活動の解析はじめに、本題の「脳を創る」という研究を進めるうえで必要なヒントをえるために行っている実験的な研究からお話します。この課題のもと、神経活動を電極のかわりに色素を使って光で計測しながら研究しています。神経細胞一個の活動や、チャネルの活動を調べる方法として電極法は優れており、実際にそれらの活動と動物の行動との関係などをよく知ることができます。しかし、神経回路がどのように働いているかといった解析には不向きです。その点を克服するため、光を使った生理実験を行い、学習の基礎過程や神経回路の解析、神経細胞のパラメータ収集などを進めています。
光を使う計測装置は簡単なもので(図2)、普通の顕微鏡と少し違う点は、多くの光を集めたほうが性能のよい計測ができることから、レンズが全体に大きめにできていることです。そして、脳のスライス標本を色素(膜電位感受性色素)で染色して、高速ビデオカメラでとらえ、神経活動を映像として観察することができます。
ところで、タコは賢い動物として知られており、スクリュービン(ネジつきビン)の蓋をあけることもできます。驚いたことに、他のタコがスクリュービンの蓋をあけるのを遠くからながめただけで、即座にスクリュービンの蓋をあけてしまいます。このことから眼がよいこともわかりますが、視神経を刺激したとき非常に長い活動が視覚神経節に現れ、内部で複雑な処理がなされていることがわかります(図3A)。
また、ラットの海馬を高頻度に刺激すると長期増強(LTP)といわれる活動がみられます。この長期増強とは、ある程度、高頻度に神経細胞を刺激すると、そのあとしばらく神経活動が大きくなる現象です。この現象を光計測で調べたところ、全体に活動が増強されるのではなく、ある大きさの領域にかぎられていることが明らかになりました(図3B)。また、大脳皮質には特殊な部位が存在するようで、そこの活動が時間とともに高まることがわかります。
このように、大脳皮質を刺激して活動をダイナミックに映像化することができることから、この手法を使うと、点としてではなく、全体として活動を観察することができます。(以下本文へ)