建造物彩色の保存と修復−日本および東アジアの社寺を中心に
社寺建造物装飾彩色の修復 ―剥落止め処置について―

(財)元興寺文化財研究所 山内 章



わが国の神社や寺院の建造物を装飾する彩色の修復は、外装は塗り直し、建物内部は剥落止め処置を主体とした現状保存が基本と考える。剥落止めは剥離した絵具層(層状剥離)の接着と、固着力が弱くなり粉状に剥落しつつある彩色(粉状剥落)の強化を行う処置である。建造物の場合、処置を行う箇所は柱や壁などの立面や天井などの逆さ面であり、膠や合成樹脂など液状の処置剤は流れ落ちやすく、また浸透させにくい。本稿では、膠の特性をいかした剥落止め処置方法と、膠を使った処置の今後の取り組みについて紹介する。

処置剤の選択

一.層状剥離
 層状剥離の剥落止め処置では、剥離箇所の間隙に注入した処置剤の歩留まりを第一として、次の四点を基本要件として処置剤を選択する。
 ’輓ゲ媾蠅肪軻した処置剤は、絵具が接着するまで接着界面になるべく多くとどまること。このため、処置剤は粘度が高く、液垂れしにくいものが望ましい。
◆ヽ╋饒悗稜輓ド分の間隙は狭く、処置剤の注入は外径○・六五ミリほどの細い注射針や極細の面相筆を用いて行う。このため、注入時の処置剤は粘度が低く、流動性のよい液体が望ましい。
 彩色表面に付着した処置剤は容易に除去できること。
ぁ〆峠菽屬できること。
 上記の,鉢△蓮粘度について相反する状態を示しているが、(株)ホルベイン工業から市販されている兎膠のようなゲル化温度の高い膠を使えば、これらの要件に適応すると考えた。湯煎で温めた膠液は注射器で注入できるくらいに粘度が低くなり、温度が下がるとゲル化して粘度が高くなる。この性質をいかして兎膠で剥落止め処置を行ったところ、剥離箇所に注入した膠液はすぐにゲル化が始まり、粘度が高くなることで液垂れが少なく、比較的容易に絵具層を接着することができた。この処置は、処置場所の気温と膠液の濃度とのかねあいがポイントであるが、ゲル化温度の低い膠と混合することで調整することもできる。
 膠を使う処置では、彩色表面に流れでた膠液は水で薄め、紙に吸い取って除去することができる。また、将来、処置箇所に剥離や剥落を生じた場合、絵具層を水で緩ませて再処置を行うことも可能である。これらの点も、剥落止め処置に膠を用いる理由である。