文化財の保存と修復 6−科学で探る先達の知恵
文化財保護のための先達の制度的な知恵を基本において、いくつかのお話をさせていただきます。
現在の文化財の保存のための制度は、指定制度であることはいうまでもありませんが、その善し悪しは別として、ひとつひとつの文化財を段階的、つまり優劣をつけて評価し、優の部分を保存することがひとつの理念となっています。このように展開していくまでの先達の努力について、特に明治初期を基礎においてお話しします。
今から40 〜50 年前までは「目通し、風通し」といわれる曝涼行事、つまり「虫干し」などによって文化財を保存する習慣をもっていました。戦前から戦後のある時期までは曝涼を積極的に行ってきましたが、近年では、ほとんどみられません。例年、奈良国立博物館で開催される正倉院展は、曝涼行事の名残ともいえます。いずれにしても、近年、保存問題を中心にして文化財に対する関心は市民のなかでも高くなっています。その動向をみると、古墳・古い神社仏閣などの文化財へ関心をもっている人が約70 %、伝統的な民俗芸能や地域の祭りなどの無形文化財へ関心をもっている人が約62 %で、関心がない人は前者で約22%、後者で約29%です(図1)。
また、総理府が行った国民生活に関する世論調査からとりだした文化に対する国民の意識をみるとわかるように、バブル経済が高揚し始めた昭和50〜53年を境にして、人々は物の豊かさより心の豊かさを求めるようになっています。心の豊さを形成することのひとつに、文化財の存在が大きく寄与していると考えられます(図2)。この2つのデータは文化財に対する人々の関心の現れを如実に示すとともに、われわれが文化財を保存していくことに対しての大きな期待とも読みとれると思います