第13回「大学と科学」遺伝子で生物の進化を考える
はじめに
一般的に、私たちが動物を分類するとき、背骨をもつ脊椎動物(animals with backbone)と背骨をもたない無脊椎動物(animals withoutbackbone)にわけています。しかし、より専門的な動物分類学では、脊椎動物という動物門はありません。ヒトでは、赤ん坊より前、受精卵が細胞分裂を繰り返して親の形を形成していく最初の段階で脊索ができ、それが脊椎骨に置き換わっていきます。それに加えて、脊索をそのままもつ動物群をひとまとめにして脊索動物と呼んでいます。したがって、脊椎動物と頭索類(ナメクジウオ)と尾索類(ホヤ)を一緒にした脊索動物と、それ以外の無脊索動物にわけるほうが理論的だと考えられています。
脊索動物は、さらに半索動物(ギボシムシ)や棘皮動物(ウニやヒトデ)とともに新口動物という、より大きな動物群を形成していますが、これらの動物は約6 億年前に共通の祖先から分岐してきたものと考えられています(図1)。この脊索動物という名がそこから由来するように、これらの動物群のもっとも重要な特徴は脊索です。
したがって、新口動物各群を生みだした祖先のなかで、脊索がどのように形づくられるかを調べることによって、私たちヒトを含む脊索動物の起源を探ることが可能になります。
私たちは20 年ほど、ホヤを使って研究をしてきました。研究室は京都にありますが、実験は青森県の浅虫や岩手県の大槌、宮城県の女川などで行っています。ホヤを使うと脊索の形成過程がわかりやすくなります。ところで、脊索を形成する遺伝子が存在します。そして、脊索を形成する遺伝子は、私たちのように脊索をつくる動物になって初めてできたのではなく、無脊索動物にも存在しています。
そこで、なぜ、脊索動物ではこの遺伝子が働くと脊索ができ、無脊索動物ではその遺伝子が働いても脊索が形成されないのかが、問題となります。それは、このほんの5 年で明らかになってきたことです。
ホヤのオタマジャクシ幼生沖縄の海のチャツボホヤのように群体性のホヤもいますが、私たちが研究材料にしているマボヤは単体性で、東北地方で養殖されています。このホヤは、岩にしっかりと根をはっており、入水管と出水管の2 つの口があります(図2)。生物は不思議で、マボヤの入水管はプラスの形を、出水管はマイナスの形をしているため、一目で区別することができます。とにかく口を開け、はいってくる栄養物を摂取しては排出して生きていますが、その形をみただけでは、この動物と私たちヒトとの間に、何か共通するものを見出すことは困難です。ヒトと同じ仲間だとはとても思えません。
事実、以前はホヤは軟体動物に近い動物であると考えられていました。しかし、130 年ほど前にコアレフスキーが、ホヤの卵が受精してからの発生過程を詳細に観察し、ホヤが私たちとずいぶん近い関係にあることを明らかにしました。つまり、ホヤの受精卵もオタマジャクシ幼生をつくり、その幼生の尾の中央に背索が形成されます(図3)。(以下本文へ)