第16回「大学と科学」動脈硬化のしくみを探る
血管リモデリングの細胞生物学
西川 伸一
京都大学大学院医学研究科教授
タイトルから、なにがリモデリングで、なにが細胞生物学だと思われるかもしれませんが、ここでは、私ども科学者が物事をどのように考えるのかということを、血管という材Flk1 Flk1 D A Flk1 VE-カドヘリン E VE-カドヘリンB VE-カドヘリン F VE-カドヘリンCG 図1マウス血管の初期発生18 血管の形づくりから動脈硬化を考える料を使って、できるだけわかりやすく紹介することにします。血管構築とリモデリングマウスの胎仔では、発生、24 時間後に血管が構築されます(図1)。血管は個体でもっとも早く構築される臓器です。発生学において、血管は個体が新しく発生することを私どもに初めて示してくれた臓器です。卵を観察していると、血管が構築される様子がわかりますが、血管は何となく謎めいた新たに個体が生まれる発生のシンボルとなっていました。構築過程を調べると、まず、血管のもとになる細胞が出現し、そこから分化した細胞がたくさん集まって手をつなぎ、24 時間すると管になります(図1)。そして、何となく管ができるのではなく、太い血管と細い血管、つまり動脈と静脈がごく短時間のうちに同時に構築されます。その過程を、もう一度モデルをかえることから「リモデリング」と呼んでいます。
では、なぜ、このように特徴的なことが血管で起こるのでしょうか。血管リモデリングの研究目的血管はあらゆる組織に必須の、しかし独立した組織です。したがって、再生医学やがんの治療などは、血管構築についての理解なしに構築することができません。組織自体は内皮と周囲細胞(平滑筋も含む)より構成される比較的単純なものですが、それにより形成される構築には大きなバリエーションが認められ、現在なお試験管内で組織化された血管構築を再現することは困難です。私どもは、血管構築の組織化の原理を明らかにし、その知識に基づいて組織化された血管構築をデザインし、試験管内で再現することを目的としています。これまでの研究で、VEGFR2 を発現している側板中胚葉を3次元培養中で血管構築へと発展させられることを明らかにしてきました。しかし、網膜血管やがん周囲血管発生について、個体レベルでの仕事を続ければ続けるほど、血管構築のリモデリングがきわめて複雑なプロセスであること、またそこでの個々の分子の役割を解明するには、それらの細胞レベルでの機能を調べる方法がほとんどないことがわかってきました。そこで、血管内皮の動態をリアルタイムにモニターするための実験システムを構築し、新しい細胞学を目指しています。
細胞生物学からのアプローチこのリモデリングについては研究が進んでおり、佐藤先生が紹介されたように、さまざまなモデルが提唱されています。リモデリングは、血管の内皮細胞と、血管の周囲細胞が何となくくっつき始めると起こります。つまり、血管は2つの構成成分からなり、それらが相互に作用し始めるとリモデリングが起こるわけです。
これでおしまいかというと、そうではありません。さらに、いろいろなことを知りたいのが科学です。そこで、最近は遺伝子から攻めています。まず、遺伝子が欠損したマウスを作製します。図2は、長澤先生からお借りした胎仔の胃の写真ですが、それにより予想もしなかったものがリモデリングに関与していることが明らかになりました。(以下本文へ)