第17回「大学と科学」生物多様性の世界−人と自然の共生というパラダイムを目指して
はじめに
 生物多様性(Biodiveristy)という言葉は、今ではよく知られるようになりました。いや、ある意味では流行語になってもいます。しかしこの用語が、ある程度使われるようになったのは、それほど古い話ではありません。ご承知のとおりこれは、生物学的多様性(Biological Diversity)の略語ですが、種多様性(指数)などの用語はそれ以前からあったものの、この言葉自体がでてきたのは1970代後半、ある程度広く知られるようになったのは80年代後半のことです(たとえば、ウイルソン 1986 ; ウイルソン・フランシス 1988)。そして、92年にブラジルのリオ=デ=ジャネイロでひらかれた「環境と開発に関する国連会議(UNCED)」いわゆる「地球サミット」で、『生物学的多様性条約』が『気候変動枠組み条約』と同時に締結され、あわせてその具体的目標として『アジェンダ21』がつくられて有名になったものです。ついでに申せば、この『生物学的多様性条約』は、多くの国が調印・批准し、日本もその翌年に批准しましたが、アメリカ合州国は遅れて調印はしたものの、まだ批准していないはずです。
 ところで日本語の「生物学的多様性」あるいは「生物多様性」も、訳語として1990年ごろから使われ始めてきました。私自身もあるいは、それを広めたひとりかもしれません。しかし、93年だったかと思いますが慶応大学の岸由二さんに、「<生物多様性>などという硬い言葉は使わず、<生命の賑わい>あるいは<生きものの賑わい>というべきだ」といわれたことがあります。私も「しまった」と思い、彼の意見に賛成したのですが、ときすでに遅く、「生物多様性」が広まってしまって、もはやどうにもなりません。