第18回「大学と科学」極微な力で拓くナノの世界−原子・分子のナノ力学最前線−
ミクロな力で見た
身近なナノの世界
― 摩擦と帯電をミクロに探る―
はじめに
21 世紀はナノテクノロジーの時代で、各種デバイスはどんどんミクロ化していきます。
寸法L のサイコロのような材料をミクロにしていくと、体積はL3 で表面積は6L2 なので、両者の比は表面積/体積= 6 / L となり、L の減少とともに逆に大きくなっていきます。つまり、ナノの世界では、身近な物理現象である摩擦や帯電などの表面の効果が、重力や質量などのバルク(体積)の効果を上回るようになります。いいかえると、ナノの世界は「表面」が支配する世界です。摩擦や帯電は、空気中、室温で起こる身近な現象ですが、この摩擦や帯電の「素過程」は、現在でもいまだ十分には解明されていません。ここでは、ミクロな力で観察して探った摩擦や帯電の素過程について紹介します。
物質をどんどん小さくするミクロ化が進むと、原子レベルでは物理法則が変化することが量子力学ではよく知られています。たとえば、波と思われていた光に粒子の性質が現れ、粒子と思われていた電子に波の性質が現れます。では、摩擦や帯電をミクロにみると、のような現象が現れるのでしょうか。ナノスケールでは、新しい道具をつくりだすことで、新しい世界が切り拓かれます。

マクロな帯電の歴史、法則、原因

帯電という現象は、約2,500 年前の古代ギリシャ人が発見していたという記録が残っています。こすった場合の摩擦帯電と触った場合の接触帯電は、特に冬場に起こる身近な現象ですが、接触帯電は雰囲気によって起こり方が変化します。2 つの物質、たとえば湿った空気中では、ポリスチレンと白金の接触帯電では負電荷が発生しますが、乾燥している空気中では正電荷が発生します。また、帯電自体が気まぐれで、実験では帯電量がばらつきます。たとえば、テフロンが、金、ナイロン、PMMA とそれぞれ接触したとき、テフロンには負電荷が発生することが多く、ナイロンとの組合わせでは正電荷が発生します。このように、気まぐれで再現性がないといわれてきました。
ここで、帯電が起こる機構について簡単に説明します(図1)。マクロな場合、2 つの物質をある程度近づける(接触)と、トンネル効果などにより電荷が移動します。その後、離す(分離)と、電荷がもとに戻りきらず、少し残ります。これが、「帯電」です。このような帯電の再現性が、なぜ、悪いのでしょうか。たとえば、非常に大きな板を考えると、表面には顕微鏡レベルでの小さな凸凹が多数あるため、さまざまなところで接触します(図2A)。接触状態や接触点の数、接触面積などは制御できません。これが、再現性を悪くしている理由のひとつです。また、絶縁体の場合、帯電した
後に分離すると、どうしても残留電荷が残りますが、この残留電荷が再度帯電したときに逆流して、前と違った帯電が起こります。分離するときには当然、放電が起こります。これは身近な帯電の現象です。
それ以外にも問題があります。空気中にはごみや汚れがあります。1945 年にノーベル物理学賞を受賞したパウリは、英国のキャベンディッシュ研究所に次のような言葉を残しています。「固体は、原子が非常に整然と並んで結晶状態をつくっているので、神様がつくりたもうたが、表面は悪魔がつくった」と、固体表面が汚れていて、空気中、室温では再現性のある帯電の実験が非常に困難であることを述べています。