第18回「大学と科学」ビッグバン−宇宙の誕生と未来−
宇宙論とは

人類はその歴史が始まったころから、自らが住んでいるこの世界がどのようなものであるか、世界にはじまりがあったのか、世界の果てがあるのだろうか、遠くにいけば世界はどうなっているのだろうかと、問い続けてきました。宇宙論は、この問いかけに答えることです。これらの問いは、長く神話や哲学の課題となっていましたが、現在、科学の言葉で答えることができるようになってきました。現在の科学的宇宙論のシナリオであるビッグバン理論は、アインシュタインの一般相対性理論に基づいて構築されたものです。
アインシュタインは、宇宙の創生について、「私は神がどのような原理に基づいてこの世界を創造したのか知りたい。そのほかのことは小さなことだ」「私のもっとも興味をもっていることは、神が宇宙を創造したとき、選択の余地があったかどうかである」と語っています。

これらの疑問に、科学の言葉で答えることのできる時代になってきました。宇宙といっても、抽象的ないろいろな宇宙があることから、まず、簡単に私たちが宇宙といっている意味を、もう一度定義してみます。

宇宙の成り立ち、階層構造

私たちは太陽系の第3 惑星、すなわち地球に住んでいますが、これをもっと大きなスケールでみると、天の川銀河という2,000 億個の星の集まりである円盤のなかに住んでいます。この天の川銀河と同じような銀河は、この宇宙に満ちあふれています。もっとも近く有名なのは、230 万光年彼方にあるアンドロメダ銀河です。
2003 年10 月、私たちのグループのメンバーも多く参加している米国のスローンデジタルスカイサーベイでは、宇宙での銀河の分布についての地図づくりを進めており、20 億年光年、30 億光年という大きなスケールで1,000億個の星からなる銀河が、蜂の巣構造で分布していることを明らかにしました。私たちが宇宙というとき、銀河の宇宙です。その銀河が少なくとも100 億光年にわたって満ちあふれています。
この大宇宙、銀河の宇宙の起源や誕生、進化を議論しているわけです。
そして、このような構造をもった宇宙が膨張をしていることが、1929 年、米国のエドウィン・ハッブル(Edwin Hubble)によって発見されました。ただし、発見されたことは、遠くにある銀河ほど速い速度で私たちから遠ざかっているようにみえるという観測です。それを説明するために、風船の上に何枚もの一円玉を張りつけてふくらます場合を考えてみましよう。風船をふくらませると、一円玉の間の距離は広がります。一円玉を銀河と考え、これを観測すると、ハッブルの法則のようになります。私は、この世界が広がっているというハッブルの発見は、ノーベル賞を束にして授与してもよい大発見であったと思います。もはや、この世界は永遠不滅ではなく、はじまりがあり、動的に進化する存在であることを明らかにしたきわめて大きな発見でした。

ビッグバン宇宙モデルの成立

このハッブルの宇宙膨張の発見より7 年ほど前に、ソ連の科学者フリードマンは、アインシュタインの一般相対性理論を解いて、宇宙が膨張することを理論的に予言していました。その後、1946 年に米国のジョージ・ガモフは、原子核物理学に基づいて、私たちが住んでいる世界のなかにある元素、私たちの身体をつくっている元素の起源を考える過程で、宇宙は熱い火の玉から始まらなければないことを示しました。彼の予言した火の玉の名残、非常に温度の高い高温のガスであったものが膨張すると、そのなかの光の波が引き伸ばされ、マイクロ波になることもガモフは予言しています。それを米国ベル研究所のペンジャス、ウィルソンの2 人の研究者が発見しました。一般相対性理論、原子核物理学に基づいた標準ビッグバン宇宙モデルは、見事に実証されました。その意味で、物理学の偉大なる勝利であると思っています。
ハッブルの見つけた宇宙の膨張は、天文学的には難しい観測であり、誤差の大きいものでしたが、1990 年4 月24 日にハッブル宇宙望遠鏡(口径2.4m)が打ち上げられ、その直後はピンボケでしたが、93 年12 月、スペースシャトル・エンデバー号による修理(コンタクトレンズの挿入)により0.1 秒角の解像度を達成したことで、ハッブル定数を誤差10 %で、71km / s /Mpc と正確に測定できるようになりました。
ちなみに、ハッブル宇宙望遠鏡を使って宇宙の膨張の速さを測定するプロジェクトのリーダーは、Wendy Freedman という女性です。米国ではすでに、巨大プロジェクトのリーダーとして女性が活躍していますし、天文学の世界では日本でも女性の活躍は素晴らしいものがあります。