第18回「大学と科学」オゾンのゆくえ−気候変動とのかかわりをさぐる−
オゾンホールとは何か

はじめに
1982 年に南極昭和基地でオゾンホール現象が発見され、その後の研究によりそれが人為的に排出されたフロンに起因することが明らかとなり、オゾンホールは人為的な環境破壊の代表的なものとして社会的に大きな関心事となりました。その結果、オゾン層保護のための国際的なフロン使用規制が実施されるにいたったことはよく知られています。この講演では、オゾンホールの発見についてまずお話しし、なぜ成層圏にオゾン層が存在するのか、成層圏オゾンはどのような分布をしているのか、なぜそのような分布となるのか、オゾンホールの成因、近年のオゾンホールの振舞いなどについて、その概略をお話ししたいと思います。
図1 において、小さな黒点は1982 年2 月以前の総オゾン量の観測値を示しています。82 年8 月までは例年どおりでしたが、9 月、10
月になると急激に200DU 近くまで減少したことが発見されたのです。この観測をされた方はこのデータをみて、最初は何か観測の間違いではないかと思われたそうですが、いろいろと検討した結果、観測に間違いはなく、総オゾン量が減少してい
ることが明らかになったわけです。これが、いわゆるオゾンホールの世界で最初の観測です。この発見を機会にオゾンについて社会の
関心が高まり、その後の研究により、それが人為的に排出されたフロンに起因することが明らかとなり、オゾンホールは人為的な環境
破壊の代表的なものとして社会的に大きな関心事となりました。その結果、オゾン層保護のための国際的なフロン使用規制が実施されるにいたったことはよく知られています。

成層圏オゾンの成因
成層圏のオゾンは、酸素や窒素のように大気成分としてもとから存在するわけではありません。この成層圏オゾンの生成機構について、1930 年にチャップマンが純酸素モデル(チャップマン機構)を提唱しました(図2)。その真髄を一言でいうと、オゾンは大気中の酸素分子に太陽の紫外線が作用して生成されるということです。主に100km 以上の高度で、酸素分子に太陽の紫外線があたると酸素原子が生成します。生成した酸素原子が、もとから存在する酸素分子と結合してオゾンができ、生成したオゾンに紫外線があたると酸素原子と酸素分子に分解します。このとき大気を加熱します。これが、成層圏の温度が高くなる原因です。この過程で生成した酸素原子とオゾンが反応して酸素分子に戻ります。このような一連の反応の結果、主に成層圏でオゾンが生成されることになります。