第19回「大学と科学」不思議な生物現象の化学−生物現象鍵物質−
A セッション●生物現象を司る鍵化学物質
生物現象を司る鍵化学物質
名古屋大学大学院理学研究科教授 上村 大輔
サンゴの生態に関与する生物活性物質/オニヒトデの誘引物質/オニヒトデ稚幼生の摂餌行動刺激物質/レイシガイダマシ類/ウニを食害するタコヒトデの誘引物質/二枚貝に蓄積される毒成分/藻類由来の超炭素鎖有機分子/強力な生物活性物質の探索/哺乳類由来の生物毒

B セッション●植物の化学
アジサイの花色変化― なぜ、移り変わりやすいのか―
名古屋大学大学院情報科学研究科助教授 吉田 久美
花色発現の謎/アントシアニン研究の歴史/アントシアニンの色変化はなぜ起こるか/ツユクサの青色花弁色素/空色西洋アサガオの花色変化/アジサイの花色はなぜかわるのか/単一の着色液胞での花色発現機構の解明/まとめ

オジギソウとハエトリグサの化学
東北大学大学院理学研究科教授 上田  実
就眠運動とダーウィン/就眠運動の分子機構/生理活性物質の抽出・精製/活性物質の標的細胞の同定/植物はなぜ眠るか/就眠運動の阻害剤の応用/食虫植物ハエトリソウと記憶/ハエトリソウの記憶は記憶現象のルーツか

C セッション●特別講演
日本の天然物化学の伝統
(財)蛋白質研究奨励会ペプチド研究所所長 芝  哲夫
はじめに/長井長義とエフェドリン/高峰譲吉、上中啓三とアドレナリン/池田菊苗と味の素/鈴木梅太郎とビタミン/吉田彦六郎、眞島利行と漆/黒田チカと植物色素/藪田貞次郎、住木諭介と植物成長ホルモン/野副鉄男とヒノキチオール/久保田尚志、松浦輝男とイポメアマロン/魚毒テトロドトキシン、パリトキシン、シガトキシン、マイトトキシン/自然免疫と細菌表層物質

D セッション●パネルディスカッション
生物と化学
京都薬科大学助教授 橋本貴美子
(財)サントリー生物有機科学研究所名誉所員 納谷 洋子
(株)ファンケル執行役員・中央研究所長 辻  智子
徳島文理大学薬学部教授 西沢 麦夫
北海道大学大学院農学研究科教授 吉原 照彦
名古屋大学大学院理学研究科教授 上村 大輔
クマノミとイソギンチャクの共生/クマノミの宿主認識/シミの生成メカニズム/ヒドロキシチロソールの効果/新しい制がん剤の創出/塊茎形成および花芽形成にかかわるシグナル物質の解明と機能解析/生物現象鍵物質/新規制がん剤TDCM の今後/グルコサミン、コラーゲンの生体への作用機構/ケイ素からなる生物は存在するか/生物を形成する必要最低限の物質は何か/構造決定法は時代により進化/生体内での生合成機構/なぜ、無機化学に対して有機化学か/顔への紫外線を避けた日光浴で健全な体づくりを

E セッション●微量構造解析
微量構造解析― もうひとつのナノテク―
大阪大学大学院理学研究科教授 村田 道雄
構造決定に用いた生物材料と得られた物質/微量試料による構造解析の難しさ/ホヤの精子活性化物質と精子誘引物質/カタユウレイボヤの精子誘引物質/SAAFの構造決定/作業構想から立体構造の決定/ SAAF の合成計画/この研究でわかったこと

F セッション●薬の化学
抗生物質と化学
理化学研究所主任研究員 長田 裕之
抗生物質とは/時代とともに拡張される抗生物質の定義/抗腫瘍物質の探索/化学遺伝学の発展/順化学遺伝学アプローチ/ Amphidinolide H /逆化学生物学(逆化学遺伝学)/新規の化合物マイクロアレイの開発/化合物バンクの創設を/免疫を制御する薬

アステラス製薬(株)執行役員研究本部副本部長 後藤 俊男
医薬品研究の特徴/免疫抑制物質の探索/臓器移植と免疫抑制剤/免疫抑制物質の探し方/免疫抑制効果のある物質の発見/医薬品へ向けての開発/細胞生化学への貢献/T細胞シグナル伝達機構の解明
G セッション●医学と化学
キノコ毒と有用物質
静岡大学農学部教授 河岸 洋和
はじめに/キノコに含まれる生体機能調節物質/カキシメジ/胃腸毒の分離/ウスタル酸による下痢発症機序/ヤマブシタケから得られた神経成長因子合成促進物質/ヤマブシタケの高齢障害者への効用/ヤマブシタケのその他の効果/これからのキノコ研究/スギヒラタケの話/病気への罹りやすさと重症度を左右する体内酵素

― インフルエンザの感染感受性とインフルエンザ脳症の発症感受性を決める酵素群―
徳島大学分子酵素学研究センター酵素分子化学部教授 木戸  博
インフルエンザウイルスの感染機序/インフルエンザウイルスの感染感受性・促進因子/生体防御因子群/インフルエンザ脳症/インフルエンザ脳症の臨床症状と病理像/血清アシルカルニチン値の上昇機序/遺伝子による体質検査を/なぜ、ミトコンドリアの脂肪酸代謝障害で脳の急速な浮腫が発生するのか/おわりに

H セッション●特別講演
ここまで進歩した薬の合成化学
東京大学大学院薬学系研究科教授 柴崎 正勝
医薬における左手物質と右手物質/触媒的不斉炭素−炭素結合生成反応は可能か/2000年当時における触媒的不斉アルドール反応の現状/生体内での酵素反応とアルドール反応/酵素型不斉触媒の開発/触媒的不斉炭素−炭素結合生成反応の実現/ LLB 触媒の機能発現機構/新しい不斉触媒の開発/四置換炭素の触媒的不斉反応の実現

I セッション●パネルディスカッション
ケミカルバイオロジーの世界
東北大学多元物質科学研究所教授 袖岡 幹子
東京大学大学院薬学系研究科教授 海老塚 豊
東京大学生物生産工学研究センター助教授 葛山 智久
京都大学大学院薬学研究科教授 松崎 勝巳
静岡県立大学薬学部講師 阿部 郁朗
名古屋大学大学院生命農学研究科助手 大場 裕一
東京海洋大学海洋科学部教授 浪越 通夫
ケミカルバイオロジーとは/高等植物の光屈性/生物現象鍵物質の多次元的解析が必須/平成版ガマの油の話/ホタルが光るようになったきっかけは/ヒトデ類の自切の分子機構解明への挑戦/新しい機能をもつ非天然型化合物の創製/天然物基本骨格生合成酵素の構造解析と非天然型化合物ライブラリーの構築/ゴリラは薬草を利用している/なぜ、オーキシンの移動説がまだ教科書に記載されているのか/生体内では酵素は水溶液として存在する/天然物研究に根ざした日本型のケミカルバイオロジーを推進すべき/米国では研究費獲得のため新しい概念、言葉を創出して自分の研究をアピールし続ける/若い人は多次元的な手法を駆使しての展開を/若手のポジション確保も急務

J セッション●化学の不思議
カエルの毒とイオンチャネル
東北大学大学院農学研究科教授 山下 まり
バトラコトキシン/エピバチジン/エピバチジンから新しい鎮痛剤の開発/プミリオトキシン/ Atelopus 属のカエルの水溶性毒/ Atelopus zeteki の毒、ゼテキトキシン/ゼテキトキシンの構造の推定/サキシトキシン類、テトロドトキシン類の生物界における分布/ナトリウムチャネルの構造と毒の結合部位/ゼテキトキシンの生理活性/テトロドトキシン耐性型ナトリウムチャネルの変異

生物はなぜ光るのか:生物発光とその応用
電気通信大学電気通信学部教授 丹羽 治樹
光と生物のかかわり/生物発光の種類/なぜ光るのか/光の分布と物質の色/光の吸収とは/発光生物の化学発光/生物発光と化学発光/ホタルの生物発光の多様性/生物発光と化学発光の応用/今後の課題

サケ母川物質
青森大学学長 栗原 堅三
サケの回遊の軌跡/ヒメマスの母川回帰行動/長距離航海には視覚を使っている/食べ物の味を構成するアミノ酸/母川物質はアミノ酸/母川回帰したヒメマスの水路選択行動/母川回帰したシロザケの水路選択行動/母川物質の記憶機構

カバの赤い汗の謎
慶應義塾大学理工学部教授 中田 雅也
汗について/カバについて/カバの汗の採取/汗の色素の抽出と分離/汗成分の構造解析/汗成分の機能

終わりに
大阪大学大学院理学研究科教授 村田 道雄