第19回「大学と科学」ここまで進んだ日米の都市地震防災
都市域を襲う破壊的地震の際に、どのような揺れがあるかの予測法
岩田 知孝 京都大学防災研究所教授

はじめに
1995年、兵庫県南部地震による強震動(強い揺れ)によって阪神・淡路大震災が引き起こされました。この強震動は、都市直下に位置した地震断層のずれによってできた地震波が、堆積盆地端部の構造により複雑に増幅・干渉して引き起こされたものであることが、地震学・地震工学的な研究によって解明されました。これは地震波の発生源である震源と、地震波の伝わってくる地下の構造がモデル化されれば、地震の揺れが予測できる可能性を示しています。そこで私どもは、地震災害を引き起こす強い揺れの予測の精度を上げるための研究を行ってきました。

地震と地震動
一般に、地面の揺れを地震といっていますが、実際には、最初に断層面で岩盤がずれて地震が発生し、そこから地震波が地表に伝播して、われわれが住んでいる地表面(地面)が揺らされます(図1)。
この地面の揺れを、私ども研究者は「地震動」と呼んでいます。そのため、断層面にどのようなずれが発生したか、地震波がどのように伝播したかで地震動が決まります。池に石を投げたときの、石の大きさや重さなどの波源が、地震では岩盤(断層)中のずれに相当し、水面の動揺が周りに伝播しますが、それが地震波に相当すると考えてください。
地中の断層でのずれがどのようなもので、どのような構造のところを伝播して地表面まで届いたのかがわかれば、それをコンピュータで再現することで地面の揺れ、すなわち地震動を再現できるところまで最近の技術は進んできています。
兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)では、明石海峡の下からずれが始まって、淡路島の野島断層と神戸の須磨、諏訪山断層のほうに破壊が進んだことが、地表で観測された地面の揺れを分析することによって明らかになっています。
ちなみに、図1では、断層は四角い板が食い違うようなイメージで描かれていますが、現実には空間的に大きくずれる場所と、あまりずれない場所が混ざっています。

地震の理解と地震動予測
ところで、大阪平野は大阪盆地とも呼ばれるように、周りを山で囲まれた堆積盆地です。
この大阪平野の地下構造は、地球物理学的な調査によって3次元的にモデル化することができます(図2)。大阪平野は、硬い花崗岩からなる岩盤で周りを囲まれ、その岩盤の器のなかに砂が堆積したようなものです。この大阪平野は、さしわたしが60km × 40km ほどの楕円形で、最深部には厚さ約3km にわたって砂が堆積しています。硬い岩盤の器のなかに軟らかいものがつまっていて、ちょうど洗面器に水がたまっている状態と似ています。洗面器の縁をたたいたとき、洗面器の揺れはすぐ止まりますが、内部の水の動揺は長く続きます。これと同じような現象が地震の場合でも起こります。