ブレインサイエンス・レビュー2006
ジャンクトフィリンと結合膜構造
竹島  浩
東北大学大学院医学系研究科医化学分野教授

はじめに
筋収縮や神経伝達物質放出などの興奮性細胞での生理反応に先立ち、膜興奮による電気的信号は細胞質Ca2+上昇へシグナル変換される。細胞内ストア膜上のCa2+放出チャネルであるリアノジン受容体(RyR)は、一般的機能として細胞表層膜のCa2+チャネルと機能共役し、そのシグナル変換反応に寄与する。一方、RyR が生理機能を発揮するためには、細胞表層膜とストア膜が近接した結合膜構造中に配置されることが必要と推定される。
最近の我々の研究で、結合膜構造の形成に関与する膜蛋白質としてジャンクトフィリン(JP)が分子同定され、そのサブタイプ群の生理的重要性が変異マウスを用いて証明されつつある。さらに、中枢系特異的なJPサブタイプの遺伝子変異は、ハンチントン舞踏病類似の家族性疾患の原因となることも報告されている。本稿では、結合膜構造中のRyRとJPの機能について概説する。

1.リアノジン受容体の基本生理機能
細胞質のCa2+濃度変化は生理機能のスイッチとして広く利用されており、調節される生体反応は筋収縮、神経伝達物質やホルモン放出、遺伝子転写、細胞増殖や分化など多岐にわたっている。刺激に応答してCa2+濃度上昇が起こる際には、細胞外液と細胞内ストアである小胞体からCa2+が細胞質に導かれる。ストア膜上のCa2+放出チャネルとしては、一般的に電位依存性Ca2+チャネルから流入するCa2+により活性化するリアノジン受容体(RyR)と、ホスホリパーゼの活性化で産生されるイノシトール三リン酸(IP3)により開口するIP3受容体が知られている。両受容体はアミノ酸配列相同性を有する膜蛋白質の四量体構造をとり、分子進化的および機能的に近縁である。現在得られている研究成果から判断すると、横紋筋細胞(骨格筋と心筋)ではRyRが中心的なCa2+放出チャネルとして機能し、非興奮性細胞系ではIP3受容体がきわめて重要であり、神経細胞や平滑筋細胞では両受容体を刺激に応じて使い分けたり、協調的に利用していると考察される。
細胞質側のCa2+濃度上昇が細胞内ストアからのCa2+放出を促進する現象は、Ca2+誘導性Ca2+放出(Ca2+-induced Ca2+release:CICR)と呼ばれ、骨格筋において最初に見い出された1)。その後、類似の機構は多くの筋細胞や神経細胞にも存在することが示され、CICRは興奮性細胞の細胞内Ca2+ストアに共有される属性のひとつであると考えられる(図1A)。このCICR機構を担うチャネルに対する薬理学的研究が展開され、カフェインはCICRのCa2+感受性を高めて、定常状態の細胞質Ca2+濃度でもCICRチャネル開口を引き起こすこと、植物アルカロイドであるリアノジンはCICRチャネルを開口状態に固定することなどが明らかにされた。
遺伝子クローニングの成果から17)、哺乳動物には別々の遺伝子にコードされる1型/骨格筋型(RyR-1)、2型/心筋型(RyR-2)、3型(RyR-3)と呼ばれる3種類のRyR サブタイプの存在が明らかにされた(表1)。これらのサブタイプは、それぞれ約5,000アミノ酸残基より構成され、互いに65%程度の配列相同性を示し、CICR活性を共有する3)。
骨格筋では、細胞外にCa2+が存在しない状況下においても脱分極刺激に応じて筋小胞体よりCa2+放出が誘導され筋収縮が観察される。この現象は骨格筋型興奮収縮連関と呼ばれ、電位依存性Ca2+チャネル(ジヒドロピリジン系Ca2+チャネルブロッカーの標的蛋白質であるのでジヒドロピリジン受容体(DHPR)と呼ばれる)による流入Ca2+が必須である心筋収縮とは異なる情報伝達機序である。骨格筋では、DHPRはCa2+チャネルとしてではなく細胞表層膜である横膜上で電位センサとして主に機能していると考えられ、電位変化によるDHPR の立体構造変化が直接的に相互作用しているRyRの開口を引き起こし、筋小胞体からのCa2+放出を促進すると考えられる(図1B)。この骨格筋の情報伝達機構にはRyR-1が必須であり13)、ほかのRyRサブタイプはRyR-1機能を代償することはできない14,18)。