脳は不思議がいっぱい−2006世界脳週間の講演より−
 まずは自己紹介をします。僕は医学部を卒業しましたので、同級生はほとんど医者になりました。最近は少し違うと思いますが、僕が卒業するころは、お医者さんへのイメージは何となく金持ちで、研究者への一般的なイメージは、暗くて、何をやっているかよくわからんというものでした。医学部でも、臨床の先生は何となく派手にみえますが、基礎の先生はみすぼらしく、お金もあまりなく、汚い白衣を着てわけのわからんことをやっていると考えられていた時代でした。
 僕は小さいころから、サイエンスというか研究のようなことをやりたいと思っており、医学部にはいりました。確かに、臨床でおもしろいと感じたことがありましたし、別に血をみるのがいやになったわけではありませんが、卒業後は研究をするために京都大学の中西重忠先生の研究室にはいりました。当時、哺乳動物の分子生物学は今ほどさかんではありませんでしたが、これからは分子の時代だと考えて分子生物学を研究することにしました。
大阪バイオサイエンス研究所(OBI)とは
 今から約20年前、大阪市制百周年記念事業として、現在僕がいる大阪バイオサイエンス研究所は設立されました。日本の多くの人に大阪のイメージをきくと、サイエンス・学問のイメージはなく、どちらかというと商売・お笑いなんかのイメージが強いと思います。そこで、当時の大島靖市長が世界へ発信する研究所を大阪につくりたいと当時の大阪大学総長であった故・山村雄一先生に相談されて、京都大学医学部の教授を長く務められた世界的な生化学者、早石修先生を初代所長に迎えて設立されました。いわゆる基礎研究を行っている研究所です。学生もいます。阪大の吹田キャンパスの南側といいますか西側にあり、歩いていける距離にあります。
 早石元所長(現理事長)は何事にも一流で、この研究所は丹下健三という有名な建築家がデザインされました。普通、日本の文部科学省が考える学校や建物は、箱だけつくっておけばええやろという発想ですが、サイエンスは創造的な学問ですから、建物から創造的なものをつくろうとされたわけです。米国の研究所には、たとえば、廊下に絵が飾ってあったり、デザインがユニークであったり、周りの雰囲気から創造性を高めようとしています。その意味で、建物もデザインからお金をかけています。また、玄関をはいると総大理石の建物です。最近は大学もきれいになりましたが、僕らの学生時代には、なんか薄汚いところという感じでした。しかし、ここは床にもイタリア製のものすごく高級な大理石を使っているため、靴を脱いでもらうようにしています。
脳の構造と機能
 さて、本日は、体内時計がどこにあるのかということが主題です。腹時計という言葉がありますね。この講演会は世界脳週間の一環として開催されていますので、脳にあるんじゃないかと予想されるのではと思いますが、はたしてそうか、話をきいていただきたいと思います。
 少なくとも、脳が関係しているのは間違いありません。この脳の重要なことというかおもしろい点は、場所によって機能がいろいろと違うことです。
 今から百五十年ほど前の一八四三年、フィネアス・ゲージさんが米国のバーモントで鉄道工事をしていた折、爆発事故にあって、頭に鉄の棒が突き抜けてしまいました。