光と界面がおりなす新しい化学の世界
領域代表挨拶
藤嶋 昭
文部科学省科学研究費補助金特定領域研究「光機能界面の学理と技術」領域代表
(財)神奈川科学技術アカデミー理事長・東京大学特別栄誉教授

 本日は、「光と界面がおりなす新しい化学の世界」へ、ようこそお越し下さいました。このシンポジウムは、平成13年度から平成18年度まで約6年間にわたって文部科学省のご支援をいただき日本全国の第一線の研究者を結集して行われた科学研究費補助金によるプロジェクトのひとつ特定領域研究「光機能界面の学理と技術」の研究成果を広く一般の皆様に紹介するために、同省の研究成果公開促進費で企画されたものです。
 皆様ご承知の通り、現代の豊かな社会は化石燃料の大量消費によって支えられています。その化石燃料は、植物が数十億年にわたって少しずつ太陽エネルギーを変換し蓄積してきたものですが、産業革命以来の化石燃料の急速な消費でさまざまな問題が引き起こされています。こうしたエネルギーと環境の問題に化学の立場から取り組むため、私達の研究グループは組織されました。私達が考えたキーコンセプトは、「光エネルギーを有効利用するサステイナブルケミストリー」です。太陽系第三惑星である地球には、太陽からの恵みである光エネルギーが燦燦と降り注いでいます。地球で生まれた生命は、直接的にあるいは間接的に何らかの形でこの太陽光エネルギーを利用して命を育んできましたが、この研究プロジェクトでは、太陽光エネルギーの能動的な利用を「光機能界面」で実現しようと考えたのです。界面とは、異なる物質が接する境界のことで、そこにはエネルギーの変換や物質の変換など、多彩な機能を持たせることができます。なかでも、界面に光をあてたとき、思いもよらない面白い現象が起こることがわかってきました。私達は、さまざまな界面のナノ構造を設計・構築することで、光エネルギーを電気エネルギーに変換したり、光エネルギーで水を分解して燃料となる水素を効率よく生産したり、人間にとって有害な物質を分解するといったことができることを明らかにしました。また、光と界面の相互作用を研究するなかで、皆様が目を見張るような新しい現象を見出すことができました。「高性能光触媒」や「次世代太陽電池」の研究開発はその一つです。このシンポジウムでは、「光」のもつ魅力とともに、その化学反応の舞台となる「界面」のおりなす新しい化学の世界を御覧いただければと思います。
 私達の研究プロジェクトでは、おかげさまでこの6年間に数多くの成果を生み出すことができました。本領域が組織されたことにより、研究分野全体を活性化する雰囲気作りができ、基礎から応用までの幅広い研究活動の発展に活用されてきたことは大変喜ばしく、当領域に関わってこられた多くの方々にこの場をお借りして厚く御礼申し上げたいと存じます。また、独立行政法人科学技術振興機構(JST)や独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の新たなプロジェクトにもつながり、一部は企業との連携による実用化の研究にも進んでおります。文部科学省の基礎研究から、展開研究を経て応用研究につながる道筋を切り開いた一つのモデルケースとして位置づけて頂けるのではないかと思います。もちろんこれらは一つの通過点に過ぎず、今後とも第一線研究者が一丸となって努力を続ける必要があります。この機会に、皆様のご意見やご感想なども是非お聞かせいただければと思います。どうぞよろしくお願い申し上げます。