ブレインサイエンス・レビュー2008
「はじめに」
伊藤正男  (財)ブレインサイエンス振興財団 理事長

 ブレインサイエンス振興財団の平成19年度の塚原仲晃記念賞講演と研究助成報告の記録がまとまりました。川合述史氏の解説にあるように、脳の分子・細胞レベルにおける研究の多彩な進歩を示す8篇の論文とそれを脳の高次機能につなげようとする2篇の論文が含まれており、脳科学の現状と未来を示す貴重な記録として世に送ります。
 現代の脳科学の研究は多様な技術方法を駆使して進められていますが、早くから用いられた大事な方法の一つは、ヒトの脳の一部が病気で損傷されたり、あるいは動物の脳を外科的に損傷したときの症状を調べて、損傷された脳の部位のもつ働きを推定することです。現在は、損傷するのに各種の薬剤や遺伝子操作が使われるようになり、また症状を診るのに脳画像法や光学測定が用いられるようになり、技術的に大きな進歩がありました。脳の働きを生みだすのは神経回路であり、その回路を思いのままに切ったりつないだりすることが脳科学者の1つの夢ともいえます。塚原仲晃記念賞受賞者伊佐氏の講演は脳の高次機能の解明におけるそのようなアプローチの重要性をよく示しています。今後の脳科学では脳の高次研究のための分子細胞レベルでの技術開発が重要事項になると思われます。