第3の生命鎖 糖鎖の謎が今、解る
 本日は、糖鎖が生命と健康にどのようにかかわっているかを、ほかの演者の方々となるべく重複のないようにお話ししたいと思います。まず、本日の話の流れは、最初に糖鎖とは何か、またどんなはたらきをするのか、糖鎖はどのようにつくられるのかについて触れ、さらに、糖鎖の生命とのかかわり、糖鎖の病気とのかかわりをお話ししたいと思います。
糖鎖とは
 糖鎖は、ヒトの誕生から百寿を超えてまでさまざまなところでかかわりをもっていますし、多くの病気ともかかわっています(表1)。この糖鎖は、グルコースなどの単糖が鎖状につながったものです。たとえば、グリコーゲンは同じグルコースが一部は枝分かれしてつながっていますが、多くの糖鎖は10種類ほどの単糖がつながってできています。
 糖鎖(広く糖質と呼ぶ)のはたらきには、エネルギー源とエネルギー貯蔵のほか、動物や植物、甲殻類などの生体構成物質としてのはたらきがあります。木の皮などにあるペクチン、動物の骨などにあるコラーゲン、甲殻類にあるキチンなどがその例です。さらに、核酸(DNA、RNA)や複合糖質の構成成分として存在します。グリコーゲンなどは身体のエネルギー源として、またエネルギーの貯蔵の役割をはたし、植物のでんぷんに相当します。短距離ランナーは血中のグルコースをエネルギーとして、またマラソン選手は42.195 kmを走り抜けるのにグリコーゲンを分解してグルコースとしてエネルギーを使っています。このグルコースは多量に摂取すると肥満に、不足すると飢餓に陥るのはご承知のとおりです。
 さらに、糖鎖はさまざまな生体成分に含まれています。主として分泌タンパク質や細胞表面に存在しており、細胞間のコミュニケーションや細胞どうしの認識に関与します。細胞表面の糖鎖は脂質と結合した糖脂質や、タンパク質と結合した糖タンパク質やプロテオグリカンとして存在します(図1)。細胞膜は脂質2重層でできており、タンパク質はその膜を突き抜けるようにあり、糖鎖はひげのように細胞の外側を向いています。本日はこのなかで糖タンパク質について主にお話しします。


表1 糖鎖の生命や健康とのかかわり
 受精 発生 発育
 再生(胚性幹細胞)
 糖鎖不全症などの病気
 ホルモン
 免疫
 血液型
 ノロウイルス、ピロリ菌、インフルエンザ
 エイズ感染、コレラ、O-157毒素
 がんの転移、診断、抗体治療
 アルツハイマー病
 神経疾患、統合失調症?