見えてきた! 宇宙の謎。生命の謎。脳の謎。
 おはようございます。本シンポジウムを主催する自然科学研究機構を代表しまして一言ご挨拶を申し上げます。
 本日はこのようにたくさんの方々、それもお見受けするところ多様な年齢層の方々にお集まりいただきまして誠にありがとうございます。本シンポジウムは、私どもの機構の経営協議会委員をお願いしております立花隆さんにプログラムコーディネーターをお願いしまして、私どもの機構の研究成果を中心として広く一般の皆さま方にわが国の基礎科学の最先端をご理解いただくことを目的として開催するものです。
 自然科学研究機構と申しましても、お聞きになられた方は少ないのではないかと思いますが、国立天文台とか核融合科学研究所という名前はことによると耳にされている方がおられるかもしれません。私どもの機構は、平成十六年三月末までは文部科学省直轄の大学共同利用機関であった国立天文台、核融合科学研究所、基礎生物学研究所、生理学研究所、分子科学研究所の五つの研究機関が法人化され、自然科学研究機構という一つの機構に統合されて平成十六年四月に発足した、いってみれば国立大学法人の親戚みたいなものです。
 ここで、大学共同利用機関とは何かということについて簡単にお話しします。大学共同利用機関とは、国公私立大学の研究者コミュニティーのニーズを踏まえて世界最高水準の学術研究を行う研究拠点として設置された研究機関のことです。このような研究組織はわが国に非常にユニークなもので、その役割は次の三つのどれかに該当するといっても過言ではございません。
 まず、一つの大学では持つことが困難な大規模な施設、設備などを開発、建設、管理、運営し、それを用いて研究を推進するとともに、全国の大学等の研究者の利用に供することです。第二は、全国の大学等の研究者と一体となって行う研究ネットワークの中心として、学術の進展に貢献することです。第三は、学術の資料や情報の組織的な調整、研究、収集、整理、提供を行うことです。
 全国に散在します大学共同利用機関は、このうちのどれかの役割をはたしてきています。たとえば、本日のテーマに関連します国立天文台は、皆さんご存じのようにアメリカ・ハワイのマウナケア山頂にあるすばる望遠鏡をはじめ巨大な望遠鏡をたくさん保持し、全国の大学等の研究者との共同研究を推進しております。また、基礎生物学研究所は、全国の大学等の研究者と一体となって行う研究ネットワークの中心となって、いわばソフトの面での共同研究、共同利用を進めております。
 そのような大学共同利用機構における共同利用は、それぞれの分野の研究者コミュニティーと密接な連携の下で運営されていることが最大の特徴です。各研究所は、それぞれ多様な性質を持ちながら、先に述べたような共同利用に取り組む基礎研究分野における中核的研究拠点として、わが国の学術研究の発展に重要な役割をはたしています。また、海外の研究機関や研究者とも積極的に交流し、国際的な研究機関としての役割もはたしております。
 さて、平成十六年四月、国立大学の法人化とともに全国各地にあった十六の大学共同利用機関も法人化され、四つの大学共同利用機関法人が創設されました。自然科学研究機構はそのうちの一つで、先ほど申しました五つの自然科学研究分野の大学共同利用機関が統合して設置されたわけです。これら五つの研究所が一つの機関に属することになったのですから、各研究所はそれぞれの分野の研究を発展させていくだけでなく、異なる自然科学分野の機関が連携することによって、何か新しい自然科学の分野や問題が発掘されていくのではないかという議論が機構のなかで頻繁に行われるようになり、その結果、このシンポジウムの後半のパネルディスカッションに登場する「イメージング・サイエンス」というテーマが生まれてきました。
 分野間の連携を推進するためには、異なる分野の研究者が互いに議論を重ね、共同作業を行える場を整備し、それを長い目でみて支援していくことが必要です。新しい問題の発掘や新しい分野の形成が、異なる学問分野が触れ合うときに達成されてきたという歴史的事実を考えますと、研究者は単に自分の学問分野を掘り下げることのみに専念するのではなく、積極的に他分野との交流を深め、新しい複眼的な視点、視野を持つことが必要ではないかと考えます。
 このような視点から、私どもの機構は宇宙、エネルギー、生命、物質といった多様な自然科学分野において世界最高水準の学術研究を行うとともに、異なる分野と垣根を越えて連携することによって新たな分野を開拓し、二十一世紀の新しい科学を創製し、社会に貢献していくことを目指しています。
 ここで、簡単に学術研究の重要性についてお話しさせていただきます。昨今、よく耳にする「科学技術」という言葉は、往々にして「科学の成果に基づいて開発される技術」という意味で使われることが多いのが実情です。これに対して、学術研究は、技術的応用にはすぐにはつながらない、技術的応用を直接の視野におかない基礎科学の研究のことです。したがって、学術研究は短期間で目に見えるかたちの効果をもたらすことは難しく、コマーシャルベースには乗りにくいといえます。二十世紀初頭の量子力学の発見が今日のエレクトロニクスの基礎をなしておりますし、また量子力学の基礎は十九世紀の数学の発展によって確立されました。現在のバイオの科学や技術は、遺伝子のはたらきについて単に生物学者だけでなく物理学者や化学者たちが一緒に参画してできあがってきたものです。そういった例は枚挙にいとまがなく、これは過去の歴史からも明らかです。すなわち、学術研究の成果は、次に来る学術の発展のための基礎となり、その蓄積は新しい文化の形成の一助となります。
 学術研究は小規模で萌芽的なものから、大規模で研究チームを組んで行われるものまで多様ですが、どのような形態であっても、基本的には研究者個々人の独創的な発想が基礎となって行われるものです。それが、さらなる新しい発見へとつながっていくことは、歴史が証明しているところです。また、個人の独創的な発想は、周囲の研究者との日常的な討論や、共同作業のなかで生み出されるということも事実です。
 本シンポジウムは、今日、夕方遅くまで長時間にわたって私どもの機構の研究成果を中心に、充実した内容のプログラムが組まれております。ラウンジでは、各研究所のパネルの展示や紹介ビデオを上映しております。また、国立天文台の四次元デジタル宇宙シアターもご体験いただけます。ぜひ最後までご参加いただき、多くのものをお持ち帰りいただければ幸いに存じます。そして何よりも、自然科学って面白いな、自然科学って進んでいるんだなという感想を持ってお帰りいただければ、この上ない喜びでございます。
 最後に、プログラムコーディネーターをお引き受けくださった立花隆さんをはじめ、スピーカーの皆さん、そして裏方をお願いした皆さん、そして後援してくださったNHKと朝日新聞に対しまして心からの御礼を申し上げます。どうもありがとうございました。