官衙・集落と鉄
 奈良文化財研究所が毎年開催しております古代官衙・集落研究集会は、早いもので昨年第14回を迎えました。この研究集会は、官衙や集落に関心のある諸分野の研究者が一堂に会し、さまざまな角度からひとつのテーマを掘り下げる学際的な研究集会です。
 律令国家の対極に位置する都城と集落。そしてそれを繋ぐ地方官衙。毎年、奈良時代の都城である平城宮跡を会場に、敢えて地方官衙と集落に関する研究集会を開催することの意味は、律令国家の全体像を多角的に解明したという動機に他なりません。この趣旨に賛同された多くの仲間により、長年にわたってこの研究会が支えられ、多くの研究成果が積み重ねられてきましたことに改めて感謝申し上げます。
 平城遷都1300年の記念すべき年に開催した第14回研究集会は、「官衙・集落と鉄」をテーマに取り上げました。考古学、文献史学、分析科学といった各分野の研究者が、古代の鉄生産と流通に関する研究成果を報告し、その報告を叩き台に、研究集会の参加者全員で総合討議を行いました。私も当日は総合討議の司会を仰せつかり、討議に参加することができましたが、律令制下における鉄生産や原料・製品の流通に関する熱のこもった議論が繰り広げられ、古代の鉄をめぐる研究の重要性と関心の高さを改めて痛感した次第です。
その成果をまとめた研究報告がここに完成し、皆様にお届けできる運びとなりました。本書の執筆に当たられました研究報告者をはじめ、総合討議に参加された皆様、編集作業にあたられた事務局の皆様に感謝申し上げるととともに、本書が広く活用されますよう期待したいと思います。
 研究会を運営する事務局も世代交代し、新体制で再スタートしてから3年が経過しましたが、今後も古代官衙・集落から律令国家を照射する斬新な研究課題を開拓し、研究集会の開催と研究報告の刊行を通して、最新の研究成果を共有していきたいと思います。
今後とも皆様方の暖かいご支援とご協力を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。

2011年12月
独立行政法人国立文化財機構
奈良文化財研究所長
松村 恵司