子宮頸部細胞採取の手引き
子宮頸がんの多くは、ヒトパピローマウイルス(human papillomavirus:HPV)感染が原因となり、前がん病変である子宮頸部上皮内腫瘍(cervical intraepithelial neoplasia:CIN)を経て発症することが明らかにされており、CINのうちに発見し、必要に応じて治療することにより予防し得る疾患である。そのためには検診がもっとも重要で、病巣部の適確な細胞診、組織診が不可欠である。子宮頸部擦過細胞診による子宮頸がん検診は、細胞採取、標本作製、細胞診の判定、報告書作成の各過程を経て成立するが、正確な診断のためには、まずは子宮頸部から適切に細胞が採取されなければならない。
検診の現場で子宮頸部擦過細胞診のための細胞採取は産婦人科医が行うべきであるが、実際は婦人科腫瘍学を専門とする医師のみでなく、研修医などを含めてさまざまな医師が細胞の採取に従事しているのが実態である。産婦人科医であれば基本的に腟鏡診や内診には習熟していると思われるが、誰もが細胞診の精度管理や精密検査の実情に精通しているとは言い難い。また、医師の技量によっては、そもそも細胞採取器具の選択や子宮頸部からの細胞擦過、固定が適切に行われていない場合もあり得る。
子宮頸部擦過細胞診は子宮頸部病変のスクリーニング手法として、罹患率減少効果、死亡率減少効果が確認されていることからきわめて優れた手段であり、その有効性は広く認められているが、採取ミス(sampling error)はがんの見落としや訴訟にもなりかねないリスクをはらんでいる。
そこで日本婦人科がん検診学会では、子宮頸がん検診の質的向上とより一層の普及を目指すには、まずは検診担当医の技能を一定のレベルに保ち可能なかぎり均てん化することが急務と考え、学会内で検討を重ね、検診実施マニュアルの作成を検討してきた。
このたび、日本を代表する婦人科腫瘍専門医や細胞診専門医の分担執筆による『子宮頸部細胞採取の手引き』を上梓することになった。本書では、子宮頸がん検診に関する基本的知識(解剖、生理、疫学、CINの概念、精度管理など)に加えて、細胞採取手技の実際、検体処理、トラブルへの対応、精密検査(コルポスコピー、生検、HPVテスト)への展開について、可能なかぎり検診現場の実態に則してわかりやすく解説している。本書は本邦初の系統的な子宮頸がん検診実施解説書であり、検診担当医の道標となることを願ってやまない。
今後も、日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会、日本総合健診医学会、日本人間ドック学会、日本婦人科腫瘍学会、日本臨床細胞学会とも連携して議論を重ね、子宮頸がん検診担当医師の技能向上と標準化を目指していきたいと考えている。