第19回「大学と科学」今、世界のことばが危ない!−グローバル化と少数者の言語−
A セッション●多様な言語の姿:フィールドからの報告
モンゴロイド系最後の狩猟採集民『黄色い葉の精霊族』の言語、ムラブリ語
麗澤大学外国語学部教授 坂本比奈子
ムラブリ族の居住環境/ムラブリ族以外の山岳民族の現状/ムラブリ族の衣食住/かわりゆくムラブリ族の住居/ムラブリ文化が守られてきた背景/ムラブリ語の語彙/ムラブリ語の自動詞・他動詞/おわりに

動詞の仕組み― ことばと文化をひもとくカギ
東京女子大学現代文化学部教授 大角 翠
メラネシアの言語的特徴/ニューカレドニア南部の人々の暮らし/プティクリ部落の衣食住/ネクでの生活/ティンリン語とネク語の特徴/動詞の使用例

発想の転換をせまることばたち、北米先住民諸語
大阪学院大学情報学部助教授 笹間 史子
北米の言語的多様性/ 1語で「石が落ちる」?/名詞と動詞の区別/1語に盛り込み得る概念の多さ/豊富な接辞/子音連続/北米先住民諸語の現状

言語の違い、認識のちがい
大阪学院大学情報学部教授 宮岡 伯人
1. 言語のはたらきと文化/ 2. 範疇化と範疇の操作/ 3. 語彙的分節/4. 2次的範疇化/ 5. 文法的範疇化/ 6. 言語の「カタチ」と言語の多様性―その意義

討議 司会/京都大学大学院文学研究科講師 白井 聡子
コメンテータ/札幌学院大学商学部助教授 佐々木 冠
パネリスト/坂本比奈子、大角  翠、笹間 史子、宮岡 伯人
名詞抱合と接辞は違う/ティンリン語にみられる接辞の特徴/危機言語に対するユネスコの取り組み

B セッション●変容する言語の姿
デルス・ウザーラはどんなことばを話したか?
北海道大学大学院文学研究科教授 津曲 敏郎
はじめに:映画に現れた少数民族/『デルス・ウザーラ』のあらすじ/デルスの言語:ナーナイ語か、ウデヘ語か?/フィクションとしての『デルス・ウザーラ』/映画と少数民族

危ない言語で何がおきるか?
大阪外国語大学外国語学部教授 稗田 乃
モノの数え方の変化/コエグの人々の暮らし/コエグの人々の言語環境/コエグ語は危ない言語/コエグ語で起きている言語現象/形容詞の複数形成法/なぜ、複雑な複数形が必要なのか

日本語方言の変質
東北大学大学院文学研究科教授 小林 隆
日本語方言の現状/現代方言を特徴づける3つの現象/現代方言の性格と機能/もうひとつの危機

琉球語の復権
琉球大学法文学部教授 狩俣 繁久
はじめに/琉球語とは/なぜ、日本語が琉球語にとってかわったのか/なぜ、今琉球語か/ことばと認識のしかたの変容、消失/琉球語音声データベースの構築/琉球語の復権に向けて/おわりに

討議 司会/千葉大学名誉教授 金子 亨
コメンテータ/東京外国語大学外国語学部助教授 風間伸次郎
パネリスト/津曲 敏郎、稗田  乃、小林  隆、狩俣 繁久

C セッション●特別講演
自然破壊と言語崩壊― カラハリ砂漠の狩猟採集民グイ・ブッシュマンの場合―
京都大学大学院人間・環境学研究科教授 菅原 和孝
ブッシュマンとは誰か/グイ語の概略/グイの伝統的な生活/伝統的な生活と結びついた言語活動/人称代名詞の特徴/狩猟動物の生態と名称/仲間の立ち居ふるまいに対する観察の精緻さ/神話的想像力は精緻な観察と相補的である/グイの文化の変質と言語

D セッション●少数民族語の危機をどう見るか
少数民族語デジタル化:物質文化事典の試み
北海道立北方民族博物館学芸員 笹倉いる美
博物館の機能/「言語」を展示している博物館はあるか/「ことば」をどう展示するか/コリャークの電子絵本の制作/博物館資料とことば/保管

言語再活性化運動と記録保存の重要性
東京大学大学院人文社会系研究科教授 角田 太作
1971〜 74年、オーストラリア東北部での調査/言語復活運動/言語はなぜたいせつか/記録することはなぜ重要か、何を記録するか/ワルング語の特徴的な文法現象/おわりに

アイヌ語の記録・保存について
早稲田大学名誉教授 田村すゞ子
かつてのアイヌ語話者居住地域/アイヌ語は極度の危機に瀕している/アイヌ語講座の開設とアイヌ語弁論大会などの開催/元気をとり戻しつつあるアイヌ語/危機言語の研究成果をどう話者に還元するか/研究成果と資料を提供するために/「環太平洋の言語」プロジェクトで私たちが行った研究成果/工夫1:カタカナ表記の問題―音節末子音をどう表記するか/工夫2:メロディーやリズムの表示/工夫3:文字の大きさ/工夫4:文脈つき言彙集の提供/まとめ:研究成果と資料を、できるだけ使いやすい、役に立つ形で世に提供しよう

討議 司会/元横浜国立大学教授 村崎 恭子
同/札幌学院大学人文学部助教授 奥田 統己
コメンテータ/麗澤大学外国語学部教授 坂本比奈子
パネリスト/笹倉いる美、角田 太作、田村すゞ子
言語資料の収集・保存・整理を/研究ごと、相手によっていろいろ/正書法のない言語をどう表記するか/復活したアイヌ語はどのような言語になるか/言語復活をめざす当人の熱意と政策的支援

E セッション●特別講演
英語支配と危機言語
筑波大学大学院人文社会科学研究科教授 津田 幸男
はじめに/英語支配論のはじまり/英語支配とは何か― 6つの問題/1. 言語差別/ 2. 言語抹殺/ 3. 文化支配/ 4. 情報支配/ 5. 精神支配/6. 英語を基盤とした表現の階層構造の形成/英語支配論の発展―日本と海外/英語支配論と危機言語学―協力の可能性を探る

F セッション●特定領域研究総括
「環太平洋の<消滅に瀕した言語>にかんする緊急調査研究」の成果と今後の問題
滋賀県立大学人間文化学部教授 崎山 理
成果報告書の刊行にあたって/成果報告書の構成/研究成果刊行の基本的ポリシー/報告書の紹介……その1/報告書の紹介……その2/今後の課題/おわりに

G セッション●パネルディスカッション
言語の多様性を守るために
京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科教授 梶 茂樹
富山大学人文学部教授 呉人 惠
麗澤大学外国語学部助教授 千葉 庄寿
東京大学大学院人文社会系研究科教授角田 太作
筑波大学大学院人文社会科学研究科教授 津田 幸男
東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所助教授 中山 俊秀
言語は人類がつくりだした最高傑作/コリャークの居住環境/コリャークを取り巻く生活環境と言語の変容/民族資料収集とその名称収集/少数者の言語と情報処理/少数者の言語と情報処理とのかかわり/言語をコンピュータで扱う際の前提/世界共通の文字コード体系の構築/今後の課題/オーストラリア原住民語の保持運動支援/英語は「危険言語」である/日本では日本語を話そう/ヌートカ語の保存支援活動を/ヌートカ語をめぐる社会環境/ヌートカ語を残すために何が必要か/英語支配による被害者意識から力は生まれるか/英語支配の批判と言語文化の保存活動は両立する/ひとつの言語の修得はもうひとつの言語の修得の妨げにはならない/英語のグローバル化と危機言語は関係ない?/話者の多寡は危機言語の存続に関係しない/西洋支配・英語支配・危機言語/「英語ありがたがり信仰」は危険/学校教育と危機言語/大学で日本語を必修科目に