石器研究入門
整形とは、原礫をある特定の形に作る一連の打割り行為を示す。整形という用語は主に両面加工石器の場合に適用されるが、粗割素材や最終整形直前素材、その他さまざまな形態の石器の場合にも適用される。スカンジナビアの新石器時代にみられる三角形や菱形の断面をもつピックや四角形の断面をもつ石斧などがその例である。すなわち、前章でみてきたように、「整形」という用語はチョッパーに用いることはできないが、多面体石器1)(図8-4)の製作に関しては適用することができる。
整形によって形作られたものから、その機能や意図した目的を推定することは、多くの場合、不可能である。しかし、その意図が特定の形を与えていることは確かである。例えば、機能を推定することのできる矢じり形のものもあれば、用途がわからない両面加工石器、研磨する前の最終整形直前の斧などもある。
整形にはいくつかの方式がある。粗い石英質の石から黒曜石まで、打割ることのできるほとんどすべての素材は整形されてきた。また、主要な整形技法としては、次のようなものが認められる。硬質、軟質ハンマーによる直接打撃、押圧剥離、敲打調整、研磨などである。最後の2 つに関しては、本書の内容の範囲外であるから、ここでは列挙するだけにしておく。
両面加工整形両面加工石器の製作の方式は、人類の先史時代を通じて存在した稀な方式の一つである。この方式は東アフリカでオルドワン期の終末、およそ150 万年前には出現し、それ以来捨てられることはなかった。両面加工石器は下部旧石器時代の間、ごく一般的な石器であったが、どこにでもあるというものではなかった2)。また、アシューリアンの道具(図8-1)としてもっとも重要なものの一つであった。後の時代には両面加工石器の整形は文化によって出現したり消滅したりしている。そして、それは上部旧石器時代中のソリュートレアンにおいて絶頂期に達した。新石器時代になると生活の様式が変化したことにより、主に石鏃(図8-5)を作る目的で再びごく一般的な方式となる。
1. 方 式
両面加工整形に用いられる方式はさまざまな変異をもっているにもかかわらず、基本的なアイディアは長い間変化することはなかった。作業の組み立てだけが変化したにすぎない。ここでは、総合的な視点からその方式について記述する。
整形作業は基本的に2 つの工程、整形工程と仕上げ工程にわけることができる。
両面加工整形の目的は、単独、あるいは複数の連続剥離によって稜を形成し、その稜で交差する2 つの面を作りだすことである。それら2 つの面で作られる断面は、おおむね凸状を呈し、2 本の稜が石器の形をきめる境界線を形作っている。円礫、角礫、盤状礫、剥片など、どんな石器素材で石器研究入門522)古くは、下部旧石器時代にはユーラシア大陸の西側にアシューリアンの系統の両面加工石器文化が、東側にはチョッパー、チョッピング・トゥール文化が広がっているという考え方があった(Movius 1948)。
しかしながら、近年ではその系統関係の問題は別にしても、日本列島でも下部旧石器時代と同時期となる時代に両面加工石器が発見されている(藤村他1994)。(以下本文へ)