文化財の保存と修復 2−博物館・美術館の果たす役割
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文化財の保存と修復 特別講演 中川久定 京都国立博物館長 私の元来の専門はフランス文学でしたので、美術の保存・修復の問題に関しては素人にすぎません。もちろん、美術館にはずっと関心をもっておりました。フランス文学を教えていた頃には何度も外国にいきましたが、その際にはいつも博物館・美術館を訪ねましたし、大学の演習では美術史関係の本をフランス語で読んだりしていました。京都国立博物館に勤めるようになってからは、1 ヵ月に1 回、館内にある美術品修理所の巡回を行い、1 時間半ほど修理現場を見せていただいています。そこでは毎回、口ではいえないほどの大きな感銘をうけています。また、京都国立博物館には保存・修復関係の論文が送られてきますし、修理所の岡墨光堂さんが発行されている『修復』という雑誌にもたくさんの論文が掲載されていますので、よく読ませていただいております。もちろん、それらすべてを理解できているとは思いませんが、愛読させていただいています。本シンポジウムの実行委員会副委員長である村上隆先生や運営委員である杉山真紀子先生の書かれた論文などを拝読して、たくさんのことを学ばせていただきました。そうは申しましても、実際は素人にすぎませんので、非専門家の観点から見た、という限定つきで保存・修復の問題についてお話させていただきます。まず、日本ではあまり話題にされていない本の紹介をさせていただき、その内容を手がかりにしながら話を進めることにします。 博物館・美術館の重要な役割のひとつは、いうまでもなく文化財の展示であります。しかしまず、何をもって文化財というかが問題となるでありましょう。 例えば、本シンポジウムで国立民族学博物館の森田恒之先生が提唱された「生活文化財」と名づけられているものがあります。昔、日常的に使っていた、日常生活に必要な器財という意味での文化財であります。この生活文化財との対比で、「美術文化財」*とでも名づけられる美術品があります。私ども京都国立博物館の主な展示品はこの美術文化財でありますが、そのほかに「歴史文化財」と称すべきものも展示されています。美術的な価値は特になくても歴史的な意味をもっているものであれば立派な歴史文化財になりうるのです。このようにひと口に文化財といっても、美術文化財と生活文化財、あるいは歴史文化財といろいろあるわけですが、博物館・美術館は、まずこうした各種の文化財を展示する施設として成り立っています。ただし、展示する際に、でたらめに並べておけばよいというわけのものではありません。並べているものがひとつのまとまりをなしている必要があります。まとまりをなしているということを別の言葉にいいかえると、コレクションを形成している、ということです。 話の手がかりとなる本を紹介させていただきます。日本語訳の題名は『コレクション』(吉田城・吉田典子訳、平凡社、1992年刊)です。この本は、博物館・美術館関係者の間ではほとんどとりあげられていませんが、博物館・美術館の役割を考えるうえでたいへん参考になるものです。1987年にフランス語で出版されました(正確な原題は『収集家、愛好家、好事家』)。著者はフランスの国立科学研究センター教授、ポーランド出身のクシシトフ・ポミアンです。彼は博物館・美術館で展示されるコレクションを、次の3つの特徴によって定義しています。(以下本文へ) |