木の文化・骨の文化
シンポジウム「木の文化・骨の文化」にいたるまで
奈良文化財研究所は、1998年から 5 ヵ年計画で文部省(現:文部科学省)の科学研究費の補助をうけ、「考古科学の総合的研究」という主題で中核的研究拠点(Center of Excellence)に選定された。「考古科学」の名称を本研究プロジェクトの看板に掲げるにあたって、私の専門とする環境考古学、動物考古学との関連性から、考古学は動物学と植物学との学際研究を指向せねばならないと考えた。土器の胎土分析、石器の産地同定なども有力な考古科学の方法ではあるが、骨と木は通常の遺跡では残らず、骨は貝塚と洞穴、あるいは木を加えると湿地遺跡に頼らざるを得ない。従来の考古学研究の大部分は乾燥遺跡で行われ、いってみればひからびた考古資料に基づいた過去の社会が語られていたわけであるが、研究対象を湿地遺跡、しかも木と骨に向けると、従来の考古学の成果とは比べものにならない豊かなイメージが浮かび上がる。そうした観点から、このCOE考古科学の研究拠点の指定をうけて第1回のシンポジウムとして、1999年2月9日に奈良文化財研究所においてこの国際会議を開催した(図1)。  本論は、その初年度のシンポジウム「木の文化、骨の文化」の発表原稿を柱に、これまでに同じテーマで発表をうけた、1994年春に日本学術振興会の招聘事業により来日したジョン・コールズさんと、ブリティッシュ・アカデミーの派遣研究員として同時に来日したブレィオニー・コールズさんご夫妻から、同年、3月5日に奈良文化財研究所において開催した「国際低湿地遺跡研究集会」の発表内容をもとにした論考をご寄稿いただいた(図2)。また2000年夏に、やはり日本学術振興会のサミット・記念文化人招聘事業で来日したケネス・エイムズさんには、京都学生会館における講演原稿を収録させていただいた(図3)。