第11回「大学と科学」高温超伝導とフラーレンの科学−理解はここまで進んだ−
はじめに
高温超伝導体が発見されてから10 年あまりが経過しました。この間に多くの研究者によってさまざまな角度から研究がなされてきました。これだけ多数かつ多方面の研究者がひとつの問題に集中攻撃を行ったのは、ほかには例を見ないのではないでしょうか。私どもは、幸いにもよいスタートを切れたこともあり、常に最先端を歩んでくることができ、その研究成果をここで代表して紹介できることを幸せに思っています。まず、強調したいことは、高温超伝導体は発見当初に考えられていたよりもはるかに大きな問題を含んでいることが次第に明らかになってきたということです。
ここでは、まず、超伝導の性質について簡単に触れ、次にこの10 年間で構築してきた高温超伝導に対する理論を紹介します。また、研究の過程で新しい素粒子が見出され、新しい固体電子論が構築されてきました。物質を理解することは、物質中の1 個1 個の電子の振舞いを量子力学的に理解することに基づいています。しかし、高温超伝導を理解するためには電子を1 個1 個追いかけるのではなく、新しく発見された素粒子に基づいて記述する強相関電子論が有力です。そこで、この強相関電子論に基づいて、高温超伝導のメカニズムを説明したいと思います。
超伝導は基本的な現象超伝導体になる元素は周期律表の約半分を占めています。そのため、超伝導は自然界の物質における基本的な現象のひとつであるといえます。ただし、超伝導が起こる温度が低いことが問題です。もっとも高い温度で超伝導を示す元素はニオブ(Nb)ですが、それでも- 263.5 ℃以下でしか超伝導を示しません。
そのため、超伝導は基本的な現象であるにもかかわらず遠い世界のような印象を与えてきたわけです。
ところが、高温超伝導体ではそれより100 ℃以上も高い温度で超伝導が起こります。
1911 年に水銀で初めて発見された超伝導の転移温度は4.2K でした。その後研究が進み、1986 年に高温超伝導体が発見され、現在もっとも高い転移温度をもつものは1993 年に発見された水銀系銅酸化物の135K( - 138 ℃)です。
金属の低温超伝導と高温超伝導とには本質的な違いがあります。従来型超伝導の発現メカニズムは、1957 年にBCS 理論で解明されました。発見から46 年かかったわけですが、それだけの大問題であったといえます。ただし、この46 年の歴史の最初の3 分の1 は、量子力学の完成にかかっており、このような大問題を解決するためには、基礎理論をしっかりと構築する必要があるという教訓を与えています。このような歴史的な背景に基づいて高温超伝導のメカニズムを説明することが私の話の主旨です。
本題にはいる前に、金属について復習しておきます。金属とは何でしょうか。
高校の物理の教科書には「金属では正イオンが規則正しくならんでおり、そのなかを自由電子が不規則に運動している」と書かれています。金属に電界をかけると、自由電子が一方向に動きだします。
そのとき、自由電子はイオンに衝突するため、方向をかえられたりしてジュール熱が発生します。そのジュール熱は抵抗の原因となります。ところが、超伝導では抵抗なしに電流が流れます。なぜ、抵抗なしに電流が流れるのでしょうか(図1、図2)。(以下本文へ)