第12回「大学と科学」血管病研究の新しい展開−動脈硬化はなぜ生じるか、予防できるか−
はじめに
動脈硬化、ことに粥状動脈硬化の発症・進展には、高コレステロール血症が密接に関与していることは、周知の事実です。多くの疫学調査の結果、粥状動脈硬化に基づく虚血性心疾患の発症と血中のコレステロール濃度には、密接な関係があることが示されてきました。そして、1985 年のノーベル賞を受賞したGoldstein Brown の研究によって家族性高コレステロール血症(FH)の本体が明らかになるにつれ、その理解が徐々に深まり(表1)、虚血性心疾患と血中のコレステロール密度の関係を明確に示すものとして一躍トップレベルの研究対象になり、多くの成果を生みだすことになりました。
FH は、血液中のコレステロールの70%を運んでいる低比重リポ蛋白質(LDL)の受け皿である、LDL 受容体の異常に起因しています。
つまり、LDL 受容体遺伝子が欠損しているため、血液中のLDL 値(正常は140mg / dl まで)が、正常の2 〜 3 倍に上昇しています。しかも、FH 患者は、そうでない人々に比べて粥状動脈硬化性疾患、ことに虚血性心疾患を若年時から起こしやすく、その大部分の死因が心筋梗塞であることを、金沢大学の馬渕先生のグループが報告されています。したがって、FH 患者のこのような病態を解明することができれば、それに基づく治療法が開発されることになります。
食生活と高LDL 血症ところで、私どもは研究の過程で、血液中のLDL の代謝には、肝臓におけるLDL 受容体の数の増減がもっとも重要であることが明らかになってきました。つまり、肝臓のLDL受容体が多いと、血液中のLDL は低下し、逆に少ないと血液中のLDL は上昇します。そして、食物に肉・乳製品が多いと、それらに含まれる動物性の飽和脂肪酸、コレステロールが肝臓のLDL 受容体を減少させ、結果として血液中のLDL 値が上昇することが明らかになってきました。
したがって、今日では、これに基づいた食事療法はもとより、肝臓でのLDL 受容体の発現を上昇させる薬剤が開発され、FH 患者をはじめとした高コレステロール患者の治療に応用されています。
しかしながら、高コレステロール血症のなかには、高比重リポ蛋白質(HDL)の高い人もいるわけで、この人たちのなかには、必ずしも治療を必要としない人も含まれています。医師による正確な診断が必要とされているのは、この鑑別のためです。
高LDL 症と粥状動脈硬化では、なぜ、高LDL 症が粥状動脈硬化を引き起こすのでしょうか。
患者さんで研究することはできないため、動脈硬化モデルを使わざるをえませんが、最近、FH のモデル動物が開発されています。(以下本文へ)