第13回「大学と科学」バーチャルリアリティ
本シンポジウムは、平成7 年に発足した文部省の重点領域研究『人工現実感』の成果を広く一般に公開するために企画されたものです。人工現実感とはバーチャルリアリティ(VR)のことですが、重点領域研究の発足にあたり、このバーチャルリアリティを巷間で訳されている「仮想現実」としなかったことには重要な意味があります。このバーチャルリアリティとは何かを説明することから始めたいと思います。
バーチャルとは「バーチャル」とは、辞書によっては「仮想」と書かれています。しかし、「仮想」とか「虚構」と訳すのは明らかに誤りです。文部省の重点領域研究に誤訳を用いることはできないと考え「人工現実感」としました。
バーチャルとは「みかけや形は原物そのものではないが、本質的あるいは効果としては現実であり原物であること」であり、これはそのままバーチャルリアリティの定義を与えています(表1)。あえて簡単に一言でいえば「現実のエッセンス」がバーチャルリアリティであって、虚や仮想とは似ても似つかない概念です。虚はイマジナリーであって、バーチャルとはむしろ正反対とさえ思える概念です。仮想は、あくまでも仮りに想定したという意味を表していて、これもバーチャルとはまったく異なる概念です(図1)。ちなみに、バーチャルの反意語は「名目上の」という意味のノミナルです。
さて、バーチャルイメージは「虚像」と訳されていますが、実はそれも間違いです。バーチャルとは「表面上はそうではないが、実際はそうだ」という意味です。みかけは違うが効果としては実物である、というのがバーチャルです。バーチャルイメージの場合、普通のリアルイメージのように、そこに光が集まるわけでも、そこから光が発せられているわけでもありません。
しかし、効果としてはリアルイメージと同じであるということを意味しています。触れられないのではないかという方がいらっしゃるかもしれませんが、触れられないのはイメージの性質であって、バーチャルの性質ではありません。リアルイメージだって触れられないのです。
バーチャルは仮想ではない戦後、バーチャルメモリというものが開発されました。その当時のコンピュータは、コアメモリという鉄心に電線を巻いて電流を流して磁化させ、それで記憶させていました。そのため高価で、しかも容量も大きいことから、ディスクのある領域をスワップして、その領域を実際のメモリとしたわけです。この方式をIBM が1970 年に採用し、それをバーチャルメモリと呼んでいました。コアメモリの格好はしていませんが、メモリの役割をはたしているという意味です。もちろん、バーチャルという英語は正しいわけですが、それを「仮想メモリ」と和訳してしまったことに問題があります。
例えば、「バーチャルカンパニー」が「仮りに想定した仮想会社である」としたら、そのようなところとは取引することはできません。バーチャルカンパニーは、いわゆる従来の会社の体裁はなしていないが何らかのネットワークで結ばれており、会社と同じ機能を有するものであるからこそ、そこを利用することができるのです。(以下本文へ)