第13回「大学と科学」生き物の形づくり
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卵における細胞質の不均一性 私どもはカエルやイモリを使って、脊椎動物の発生過程における共通の器官形成システムを調べています(図1)。 1個の受精卵から時間的な流れのなかでどのような変化が起こり、一定の形や器官をつくるのかが問題ですが、この形づくりに関して、竹市先生や小林先生が述べられたように、勾配という概念が重要です。カエルの卵の発生においても2種類の濃度勾配が重要になります。ひとつは、筋肉や脊索などをつくる中胚葉を形成するM因子が、尾側から頭側に向かって濃度勾配をつくっています。もうひとつは、神経の背側から腹側に向かうN物質の濃度勾配です。これらが形づくりに関与しています(図2)。 つまり、未受精卵にはもともと卵軸があって、それに沿って物質が不均一性(極性)を示しています。この未受精卵の不均一性は受精という個体発生の引き金が引かれることによって、さらにその傾向が強くなります。例えば、両生類はその後の形づくりに決定的な要因となる表層回転を起こし、卵表と細胞質に移動が起こり、胚軸のひとつである背腹軸をきめることになります。このことによってさらに卵の細胞質の不均一性が加速されることになります。この細胞質の不均一性こそが、胚葉形成と器官形成、そしてそれを統合する個体発生に大きな影響を及ぼします。なぜな1 セッションタイトル発生における胚葉と器官形成浅島 誠東京大学大学院総合文化研究科教授ツメガエルイモリヒト受精卵中枢神経系脊索脳心臓肝臓生殖巣図1 共通の器官形成システムらば、受精後に起こる細胞分裂(卵割)によって不均一な細胞質はおのおのの分割された細胞(割球)にはいっていくことになるためです。このとき、核と細胞質に新しい相互関係が生じますが、それぞれの細胞にとって細胞質の中味(物質)が異なるので当然、その核と細胞質の相互作用も異なったものとなります。 最初の分化はこのようにして起こります。 初期過程における胚葉形成正常な発生過程では、図3 に示すように、1個の受精卵が卵割して細胞数を増加させていきますが、そこで最初に起こることは、中胚葉の誘導です。卵割が進行すると、卵の植物半球側から動物半球側へのシグナルの分泌があって、その中間部(帯域)に中胚葉をつくります。この中胚葉形成もその後の発生に大きな影響をもつことになります。なぜなら、中胚葉こそがその後の形づくりの中心になると考えられるからです。帯域のところに中胚葉ができますが、精子のはいったほうが腹側に、その反対が背側になります。これは先ほど述べた表層回転によるものです。(以下本文へ |