第14回「大学と科学」21世紀の新素材−産業界を活性化させる傾斜機能材料−
文部省科学研究費重点領域研究『傾斜機能材料の物理・化学』という研究プロジェクトが平成8 年度からスタートし、平成10 年度に終了しました。このプロジェクトで得られた研究成果を報告することが本シンポジウムの目的で、講演内容は以下の7 つの分野です。
A . 傾斜機能材料とは
B . 自然界にある傾斜機能
C . 宇宙へ飛び立つ傾斜機能
D . 工業材料を機能傾斜化する
E . 次世代通信は傾斜機能で
F . 傾斜化によりゴミから発電
G . 傾斜機能で寿命をのばす
このうち、私はまず、傾斜機能材料とはどのようなものなのかを説明します。
傾斜機能材料とは現在使われている材料では、どの部分をとっても同じ機能(性質)になっているはずです。そのことは、従来の工業材料では不可欠の要素となっています。しかし、材料のある部分と別の部分では性質が違う、つまりひとつの材料のなかで性質が、連続的か段階的かを別にして、変化しているものを傾斜機能材料と呼んでいます(図1)。
材料の性質が部分的に異なると、材料全体としてどのような利点が生まれるのでしょうか。例えば、ある部分は機械的強度が強く、別の部分は耐熱特性があるといった、2 つの顔をもった材料になります(図2)。一方の性質傾 斜(変化)機 能(性質)連続的段階的A図1 傾斜機能材料とは表面 X表面 Y耐熱特性熱応力緩和特性機械的強度図2 2 つの顔をもつ材料が導電性を示し、もう片方が絶縁性を示すのではあまりおもしろくありませんが、種類の違った性質が発現すると新たな応用が開けることになります。
傾斜機能材料の概念の誕生こうした傾斜機能材料は、どのようにして生まれたのでしょうか。プラスチックにしても半導体にしても、材料が開発されるまでには長い歴史があります。傾斜機能材料は、15年ほど前に初めてわが国で提案されました。
普通、材料が開発されて使われるようになるまでには10 〜 20 年かかるといわれていますが、この傾斜機能材料も提案されてから開発にいたるまで15 年かかっています。
1984 〜 85 年に、私の研究室に文部省、通産省、科学技術庁から5 人の研究者が集まり、スペースプレーン用の新しい超高温断熱材料を開発するためのブレーンストーミングをしていました。スペースプレーンでは、機体表面は非常に高い温度(約1,700 ℃)にさらされるので、内側との温度差が1,000 ℃という過酷な条件に耐えなくてはなりません。このような条件に耐える材料は、単体では存在しないため、どうしようかと相談していたのです。
何回か集まり、やっとひとつのアイデアがだされました。それが傾斜機能材料です。つまり、高温にさらされる面を耐熱性のあるセラミックスに、内側の面を熱伝導度が大きい材料に、と考えました。ここで、従来の材料設計では、2 つの材料を張りあわせるところですが、両者を単純に張りあわせただけでは、1,000 ℃という温度差があるため、境目から割れてしまいます。そこで、この境目をなくすことができないかと考えました。2 つの材料が徐々に混ざりあうようにすれば、境目はなくなります。このようにして考えだされた材料を、性質(機能)がなだらかに変化(傾斜)するということから、傾斜機能材料と名づけました。(以下本文へ)