第14回「大学と科学」生物の働きを生み出すタンパク質のかたち
私どもは、主として大学に所属する50 を超す研究室と「タンパク質立体構造の構築原理」と称する文部省特定領域の研究チームをつくり、平成7 〜 10 年度の4 年間にわたって研究をしてまいりました。1999 年10 月19 日には文部省において、この4 年間の研究の成果を報告し評価をうけるヒアリングが行われました。審査に当たられる方は生物学の研究で我が国を代表する錚錚たる先生方なので、報告にまいりました私どもはたいへんに緊張したのですが、私どもの研究の成果は、幸いにも以下に示すようなたいへんによい評価を得ることができました。
評価結果: A「期待通り研究が進行した」
(意見)「タンパク質立体構造の構築原理について興味ある知見が得られ、タンパク質の立体構造を予測可能な領域とした。大変完成度の高い研究成果であり、関連分野への貢献度も大きい。非常によく計画された研究で、ポストゲノム研究としてますます力を入れるべき分野と考えられる」
このようなよい研究成果をあげることができたのは、研究チームに参加くださいました多くの研究者の方々のご努力・ご協力のお陰であり、研究代表者としてあらためてお礼を申し上げます。また、この領域研究を財政的にも精神的にも可能にしてくださいました文部省や学会の関係各位の長期間にわたるご支援に対して心からのお礼を申し上げます。
本シンポジウムは、この領域研究によって得られた研究成果やその周辺の研究状況を一般の皆さまに聞いていただくことを目的に開かれたものです。
「はたらき」と設計ところで、今回の講演会全体の題目は『生物の働きを生み出すタンパク質のかたち』といいます。2 日間にわたって聞いていただこうと思っていますのは、タンパク質の「かたち」と「はたらき」に関するいろいろな側面の研究です。私のお話では、タンパク質とは何か、その「かたち」と「はたらき」がなぜ、どのように問題になるのかをご説明したいと思います。
タンパク質とは何かを説明する前に、われわれが「かたち」と「はたらき」を問題にする対象が持っている一般的な性格を考察しておこうと思います。私のお話では、タンパク質分子の「かたち」と「はたらき」を問題にしようとしているのですが、じつはタンパク質分子の持っているある重要な性格は、タンパク質分子に固有の性格というよりは、むしろわれわれが「かたち」と「はたらき」を問題にする対象が共通に持っている性格なのです。例えば、机を考察してみましょう。机は机らしい「かたち」を持ち、そのうえで人が仕事をするという「はたらき」を持っています。別の例として自動車をとりあげましょう。自動車は、自動車の「かたち」を持ち、人を乗せて運ぶという「はたらき」があります。それでは、石ころとか月とかはどうでしょう。それぞれの「かたち」がありますが、われわれは普通には石ころや月の「はたらき」を問題にはしません。これらの例をみてみると、人が目的をもって設計した人工物は「はたらき」を持っているといえます。(以下本文へ)