第14回「大学と科学」エジプトを掘る−それをめぐる様々な学問分野−
はじめに
最初に、本シンポジウムの企画の意図について紹介することにします。私たちがエジプトで調査をしようと考えてから今年で35 年目を迎えていますが、この間、文部省から多くの科学研究費補助金をいただいてきました。
これまで私の自前での報告会やシンポジウムを開催してきましたが、公的資金を使わせていただいて得た成果は公的資金で報告しなければと考えて「大学と科学」公開シンポジウムに応募してみました。3、4 回は申請が必要だろうと思っていましたが、幸運にも1 回で採択されました。「大学と科学」公開シンポジウム組織委員会の先生方に認めていただけたことはうれしいことです。また、来年4 月から、私たちのエジプト調査室が研究所に昇格するため、本シンポジウムがエジプト調査室として行う最後の発表会になります。1965 年から続けてきた研究のひとつのまとめとして、このような機会を与えてくださいました組織委員会と文部省、国民の皆さま方に深く御礼申し上げます。
21 世紀の考古学においては、修復や保存学、保存科学、傷つけないようなかたちでの探査が重要になると思います。その方向に向けて、20 世紀の考古学のまとめや反省、今後の展望を、本シンポジウムでご理解していただければ幸いです。
なぜ、エジプトの研究か「なぜ日本人がエジプトで発掘をするのか」と、よく聞かれます。学問は本質的には自由なものです。理屈が通らなければやってはいけないというものではありません。やりたいからやるというのが根本ですが、そこには理論的な背景があります。質問される方は、日本人であれば日本の文化や文明、歴史などを解明するのが当たり前なのに、なぜ日本を研究しないのかと疑問をもたれているのだと思います。しかし、「井のなかの蛙大海を知らず」という言葉があるように、日本だけをみていたのでは日本はわかりません。例えば、私たちはエジプトについて研究していますが、エジプトだけを対象にしたのではエジプトのことは理解できません。そのため、本シンポジウムでもエジプト周辺を研究されている方々にご発表いただいたり、エジプトとのかかわりや文明の本質、文化のなかに含まれている諸要素などをお聞かせいただくことになっています。本シンポジウムにお集まりの方の多くはエジプトが好きだと思いますが、エジプ16 基調講演エジプトにおける発掘調査の歴史吉村 作治早稲田大学人間科学部教授トを知るにはエジプトだけではだめであるということをお伝えしたいと思います。
私は、日本の文化・文明に興味をもっており、最終的には日本をどう考えるかを外国からみるようにしたいと考えています。しかし、外国はあまりに広すぎて、私の能力だけではカバーしきれません。
そこで、一番好きなエジプトから日本をみていこうと考えてエジプトでの研究を始めたわけです。
エジプト研究の黎明期本来ならば、壇上にたっているのは川村喜一先生で、私は川村先生の代理という気持ちです。私は日本にエジプトを定着させ、広めようと考えていました。それには早稲田大学から始めようということで、オリエント考古学を研究されていた川村先生に無理を申し上げて、先生の講座をオリエント・エジプト考古学に広げていただきました。これがスタートでした。
まず、私たちがエジプトで調査・研究できるか、研究する意義はあるのかを考えました。(以下本文へ