第19回「大学と科学」みずみずしい体のしくみ−水の通り道「アクアポリン」の働きと病気−
最初に、今年は台風がたいへん多く、そのなかでも飛びきり大型の台風が今日、関東地方に近づいています。その雨のなかにもかかわらず大勢の方々にご参加いただきましたことを、心よりお礼申し上げます。
アクアポリンという言葉は最近有名になり、かなり市民権を得てきていますが、これはたかだか10年のことです。ヒトの体の6割から7割、赤ん坊では7割が水でできています。そのようなみずみずしい体を、どのようにして生物は維持しているか、その秘密に迫ることが本シンポジウムのテーマです。

アクアポリンとは

細胞膜を形成する脂質二重層は基本的に水を通過させませんが、いくつかの細胞、たとえば赤血球や腎臓上皮細胞には高い水透過性があることが知られており、100年以上前から特別な通過路、膜たんぱく質で水だけを通過させる水チャネルが存在するに違いないと考えられてきました。10年ほど前の1992年に、米国のジョンポプキンス大学のアグリ教授(PeterAgre)が、赤血球からこの性質を有するたんぱく質を発見し、水を通過させる穴を意味する“アクアポリン(aquaporin ; AQP)”の名前をつけられました。水という生命に直結する分子の細胞膜通過路が見つかったことは、生命科学の歴史上ひとつの大きな出来事であり、アグリ教授は2003年のノーベル化学賞を受賞しました。アクアポリンが見つかったことにより水と生命現象についての新しい研究領域が拓かれ、多分野で研究が進んできています。

アクアポリンの仲間たち

水が生命にとって不可欠であり、その反映としてアクアポリンは細菌から植物、動物まで普遍的に存在しており、哺乳類では現在までに13種類のアクアポリンが確認されています。水を求めて移動できない植物では30種類以上のアクアポリンが見つかっています。
人体での分布をながめると、多くのアクアポリンが体内に存在し、水輸送が豊富な臓器には多数の、そしてひとつの細胞にも複数種のアクアポリンが存在することが認められており、アクアポリンは互いに協調しながら働いていると考えられています(図1)。