第19回「大学と科学」人体にやさしい医療材料
人体にやさしい医療材料・医療器具─ 多孔質を利用した人工骨・人工歯根とガイドワイヤーの開発―
中嶋 英雄
大阪大学産業科学研究所教授

ポーラス金属の製造方法
鉄やチタンなどの多くの金属では、溶融状態では水素や窒素などのガスの溶解度が大きいのですが、凝固させると溶解度は急激に減少します。金属を高圧ガス雰囲気で溶融して、水素や窒素などを多く吸わせてゆっくりと凝固させると、固溶しきらないガスがすべて大気中に抜けます(図1)。しかし、比較的早く凝固させると、溶けきらなかったガス原子は固体中に気孔としてとりこまれます。この性質を利用して、私どもはポーラス金属を作製しています。
各種の金属中の水素の溶解度をみると、マグネシウムや銅は融点で大きなギャップを示します(図2)。このギャップを利用してポーラス化することが可能です。
実際に、金属を高周波溶解炉で溶解して周辺からガスを導入すると、溶解度にしたがう濃度だけガス原子が溶解します。その状態で鋳型にいれて鋳型の底部を冷却すると、凝固は下から上に進むため、溶けきらないガスはレンコン状に一方向に伸びます(図3)。また、周辺を冷却すると、凝固は周辺から中心に向かって進み、それにしたがって放射状の気孔ができます。さらに、凝固部を特定しないと軽石のような金属が作製できます。
このような新しいタイプの金属の呼び名がこれまでありませんでしたので、私どもはレンコンに似ていることから「ロータス型ポーラス金属」と名づけました。ちなみに、レンコンは英語でロータス・ルーツといいます。
このロータス型ポーラス金属の切断面を観察すると、丸い気孔の断面が認められます。その気孔の直径は、ガス圧や凝固速度を変化させることにより数μm から数mm まで制御することが可能です(図4)。

ロータス型ポーラス金属の作製装置
大型ロータス型ポーラス金属の作製装置を図5に示し、性能を図6にまとめます。この装置を使い、熱伝導度の高いポーラス金属を作製すると、その気孔サイズや気孔率がほぼ均一となります。図7は、0.3MPa の水素雰囲気下で作製したロータス型ポーラスマグネシウムで、冷却部から上にほぼ均一に気孔が伸びています。
ところで、ステンレス鋼は熱伝導度が低く、お風呂の浴槽をはじめとしてさまざまなところに利用されています。このステンレス鋼でロータス型ポーラス金属を同じ手法で作製しようとすると、冷却部に近いところには小さな気孔が生成しますが、冷却部分から遠ざかるとともに気孔が癒着して大きくなり、ロータス型の金属とはいえなくなります(図8写真)