文化財の保存と修復 9−東北の文化財
開会挨拶
 お早うございます。朝早くから多数お集まりいただきおおいに喜んでおります。本シンポジウムは、文化財保存修復学会が主催をして毎年1 回、各地で開催しており、今回が9 回目になります。東北歴史博物館のご尽力を得て、この会場をお借りし、「東北の文化財」をテーマにして、東北の文化財の保存、活用、修復について話し合ってみようという企画です。この企画では文部科学省科学研究費補助金「研究成果公開発表(B)」という助成金を得て、皆さま方に、「文化財とはこいうものだ、このように保存されようとしている」ということをご理解いただくことを目的として、私どもの学会としては初めて「東北の文化財」をテーマにとりあげてみました。
 東北といって私たちがすぐ思い出すのは、まさにこの地にある多賀城です。皆さま方は、多賀城にいろいろな縁をおもちだと思いますが、私たちも常に歴史に癒され、歴史のなかで育まれてきました。多賀城は近年の土地にともなう文化財保存の一大拠点となった場であり、この地での開催に縁を感じております。そして、これからの文化財は、いかに保存するかという点とともに、どう活用していくかも大きなテーマです。文化財保護という言葉はよくご存知かと思いますが、その言葉には、保存するだけではなく活用もはいっています。
 思い起こしてみますと、『文化財保護法』が施行される前年の昭和24 年に、法隆が火災にあい、これまであった日本の文化財についてもう少しシステマティックに保存を図ろうという流れがでてきました。そして、昭和24 年に今日の『文化財保護法』の原案ができたとき、作家としても知られている当時の参議院議員の山本有三が活躍されますが、当初案は『文化財保存法』でした。これからは活用も考える新しい法システムにする必要があるということで、保存と活用の両方を含めた「保護」という言葉を編み出して、『文化財保護法』となったことはご存知のとおりだと思います。いずれに
しましても、文化財を保存し、後世に継承しながら活用する道を探らなければならないと思っています。
 そうした方向づけのなかで、昭和8 年以来、私たちの文化財保存修復学会はいくつかの活動をしてきました。今後も、皆さまと手を携えて、また皆さま方のさまざまな意見をうけながら、文化財保護に関する熱い情熱を、各地に大きく訴えてまいりたいと思っております。今日一日、東北の文化財を中心として地元に縁のあるいくつかの文化財についての報告あるいは研究発表がございます。是非、ゆったりとした気持ちで一日を楽しんでいただき、「日本の文化財の保存とはこんな状況にあるのか」ということを知っていただければ幸いと思っております。
文化財保存修復学会会長 三輪嘉六