人脳解剖学自習書
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本書の特徴 脳の研究が多方面から行われ,詳細な知見が日々報告されている.しかし,情報が詳細になればなるほど,脳全体に対する役割を不明瞭にしてしまう傾向にある.脳の研究者がこれからも増え続けるであろうことと反比例して,人脳の基本構造を教えられる指導者や研究者が,今後,極端に減少していくことが推測できる.したがって,自学自習によって,人脳を理解できる適切な教科書が必要になってくる. 臨床の現場において,人脳の生体画像が臨場感にあふれ,かつ詳細に写し出される.生体画像で病像を正しく理解するためには,機能発現に直接関与する構造と他の構造との関連性を立体的に理解する必要がある.この関連性を詳細に理解するためには,まず人脳の基本構造を充分理解することが不可欠である. そこで,自学自習により,人脳の基本構造を平面的,断面的ではなく,立体的かつ総合的に習得することが期待される.この期待に応えるため,生理学的,臨床的所見を脚注に加え,人脳の基本構造が立体的かつ比較的容易に理解できるように書いたのが本書である.これまでの専門書では,ある領域が1本の指示線で示されているため,領域の広がりが理解しにくいことが多かった.本書で指示線が錯綜しているのは,一つの図で領域の広がりを把握し,構造を立体的に理解するためである. もちろん,本書の基盤になるのは我々の3冊の著書である. ? 人脳切片染色標本を基に人脳の内部構造を表した『目で見る人脳の構造』大谷克巳,山田仁三著,クバプロ ? 内部構造および構造の相互関係について人脳の剖出標本を用いて呈示した『剖出による人脳の立体構造』大谷克巳,山田仁三著,クバプロ ? 人脳の立体構造が裸眼で立体的に観察できる世界で初めて表した“Three Dimensional Structures of the Human Brain−Visible by the Naked Eye−” edited by J. Yamada, T. Kitamura and T. Ohta, Maruzen Publishing Service Center これらの著書の内容を統合するとともに,新たな立体的構造を示す写真と模式図を加えて本書を作成した. 人それぞれの人格に個性があるように,脳もまた一人一人に個性があり,同一人の脳でも左右の脳の形態や血管の走行が異なっていることが多い.したがって,脳の構造を平均的に記載するだけでは,その脳の個性を理解するのがはなはだ困難である.観察しようとしている脳は,長い人生を生き抜いてきた脳であるが故に,絶対的真実を語っている.このことを強く認識すれば,その脳をその脳なりに理解する必要がある.したがって,脳に変化が多くて理解しにくい箇所は,理解の手順を丁寧に述べた.さらに,我々独自の考えを提起した箇所があるが,その考えが真実であると断定できなくとも,それぞれのもつ特性を理解するのに充分に役立つと考える. 人脳にはいまだに未知なることが数多くあるから,脳解剖の自学自習においては,「名称の羅列と名称の指摘する場所を確認する」ことではなく,「脳という真実を観察することによって,思考の訓練をする」という立場に我々は立っている.さらに,可能な限り多くの標本を提示することによって,実際に人脳を直接観察できなくても,ある程度の臨場感をもって人脳の立体的理解が可能になるように配慮した. なお,立体的に剖出するためには,脱水した脳注)を使用し,下図のような自作の竹刀・竹ベラおよび種々の解剖用具を用いた. |