四面廂建物を考える 報告編
 奈良文化財研究所は、1996年から古代官衙と集落に関する研究集会を続けています。この研究集会は、律令国家の頂点に位置する都城と、底辺に位置する集落、その両者を結ぶ地方官衙の有機的な関係の究明を通して、律令国家の全体像を捉えようとする意欲的な研究集会です。
 これまで主に在地社会にスポットをあて、律令制の浸透を物語る特徴的な遺跡、遺構、遺物を対象に、多様な分野の研究者が、様々な角度から分析と検討を進め、議論を深めてきました。
 昨年12月に開催した第15回目の研究集会は、「四面廂建物」をテーマに取り上げました。大変特殊なテーマですが、四面廂建物は宮殿・官衙の中心建物に、寺院では金堂などに、都城では貴族の邸宅の主殿などに採用された格の高い形式の建物です。また各地の集落遺跡でも検出例が増加しつつあり、その性格をめぐって議論が活発化しているところです。
 研究集会では、都城と周辺地域の四面廂建物、東日本と西日本の四面廂建物の比較をおこない、四面廂建物の建築学的特徴と建築技術、建物の使われ方などについて、考古学、文献史学、建築史学などの分野の研究者が熱のこもった報告と討議をおこない、多くの成果を挙げることができました。
 本書は研究報告として、研究集会後にさらなる検討を加えた研究成果を収録するとともに、全国の四面廂建物遺構を集成した資料集も作成することができました。本書の執筆に当たられました研究報告者をはじめ、総合討議に参加された皆様、会の運営と本書の編集作業にあたられました事務局の皆様に感謝申し上げるとともに、本書が広く活用されますように期待したいと思います。
 世代交代した事務局の研究集会運営も順調に進み、研究報告者も新世代の活躍が期待されるところですが、当研究所では、これからも古代官衙・集落から古代律令国家を照射する斬新な研究課題を開拓し、全国の研究者の皆様と連携を図りながら、研究集会の開催と研究報告の刊行を続けていきたいと考えています。
 今後とも皆様方の格別なるご支援とご協力を賜りますよう、お願い申し上げる次第です。

2012年12月
独立行政法人国立文化財機構
奈良文化財研究所長
松村 恵司