遺跡をさぐり、しらべ、いかす−奈文研60年の軌跡と展望−
はじめに
松村 恵司 奈良文化財研究所所長

奈良文化財研究所は、2012年に還暦、創設60周年の節目を迎えました。
本書は、それを記念して2012年10月6日に東京で開催した特別講演会「遺跡をさぐり、しらべ、いかす」の記録集です。副題に「奈文研60年の軌跡と展望」とあるように、奈文研のこれまでの調査研究の歩みを振り返り、これからの文化財研究の可能性を探る内容となっています。

奈良文化財研究所は、1952年4月1日、文化庁の前身である文化財保護委員会の付属機関として、文化財の宝庫である奈良の地に設立されました。創設当初は、主に南都諸寺の総合調査を実施していましたが、その後、国家的な遺跡である平城宮跡や藤原宮跡の保存問題を契機に、平城宮跡や飛鳥・藤原宮跡の発掘調査に本格的に取り組むことになりました。そこでは、考古学のみならず古代史学や建築史学あるいは庭園史学の研究者も発掘調査に参加し、学際的な研究を推進するとともに、保存科学や考古科学を積極的に導入し、遺跡の保存・整備・活用の実践的研究を進めてきました。
東京講演会では、これまでの平城宮跡などの発掘調査の成果、考古学や保存科学への先端の科学技術の導入、遺跡の整備やマネジメント、さらには設立当初から継続して取り組んできた奈良の寺社の古文書調査、また文化遺産の保護に対する国際的協力など、奈文研の幅広い業務を紹介し好評を得ました。
壬辰の干支が一巡した奈文研ですが、第二の還暦に向けて、所員一同、これからも新たな挑戦と努力を続けていきたいと考えています。皆様の変わらぬご支援とご協力をお願い申し上げます。