長舎と官衙の建物配置 報告編
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奈良文化財研究所は、古代官衙と集落に関する研究集会を開催しています。本研究集会は1996年に産声をあげ、律令国家を象徴する都城と、対極にある集落、その両者を結ぶ地方官衙の有機的な関係の究明を通して、古代律令国家の特質を明らかにすることを目的としています。また本研究集会は、考古学・文献史学・建築史学・歴史地理学など諸分野の研究者が一堂に会し、律令国家を構成する様々な遺跡、遺構、遺物の中から、一つのテーマを取り上げ、様々な角度から掘り下げていく学際的な研究集会である点に特色があります。 昨年の第17回研究集会では「長舎と官衙の建物配置」と題して、桁行の長い建物をテーマに取り上げました。長舎とは、第15回研究集会で取り上げた「四面廂建物」とともに、官衙を構成する特徴的な建物の一つです。特に長舎は、初期官衙において長舎を多用する建物配置が多数みつかるなど、その配置や区画方法などが次第に明らかになりつつあり、その性格をめぐって関心が高まっている官衙特有の建物です。 研究集会では、各地の長舎の時期的展開や建物配置の特徴などが明らかになり、建築史学や文献史学からも長舎の構造的特徴や機能についての研究報告がありました。このように、今まで主体的に取り上げられることが少なかった長舎に対して、多角的な検討がおこなわれ、新たな研究の展開が期待される多くの成果を挙げることができました。 本書には、研究集会後にさらなる検討を加えた研究成果を収録するとともに、長舎遺構を集成した資料集も作成しました。本書の執筆に当たられました各報告者をはじめ、研究集会に参加された皆様に厚く感謝申し上げるとともに、本書が広く活用されることを期待します。 今後とも古代官衙・集落研究会の活動に対して、皆様のご支援とご協力を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。 2014年12月 独立行政法人国立文化財機構 奈良文化財研究所長 松村 恵司 |