飛鳥・藤原京を読み解く 古代国家誕生の軌跡
はじめに
松村 恵司 奈良文化財研究所 所長


皆様 おはようございます。
奈良文化財研究所(以下、奈文研)の東京講演会も今年(2016)で8回目を迎えました。今回は、先ごろ出版されました『飛鳥むかしむかし』(朝日選書、朝日新聞社刊)の発刊を記念して、同名の講演会を開催することにしました。『飛鳥むかしむかし』は、飛鳥・藤原を舞台に繰り広げられた古代国家誕生の歴史を、考古学、古代史、建築史学、美術史学、万葉学、国語学などの研究者が多角的に解説した朝日新聞の連載記事で、2013年4月から2016年3月までの3年間、毎週金曜日の朝刊(奈良版)に116回にわたって連載されました。連載には毎回、早川和子さんの個性的なイラストが添えられ、文章では表現しきれない古代飛鳥の生き生きとしたイメージが広がりました。
連載終了後に『飛鳥むかしむかし』「飛鳥誕生編」と「国づくり編」の二分冊として書籍化されましたが、出版直後の反響も大きく、読者の皆様からも好評を博しています。
そこで今回の講演会では、連載では十分に紹介しきれなかった飛鳥・藤原研究の最前線について、奈文研の気鋭の研究者6名がテーマを絞って紹介することにしました。さらに、飛鳥・藤原から平城へと遷り変わる古代衣装のファッションショーも企画しています。また、挿絵を担当していただいた早川和子さんには、この3年間挿絵を書き続けた苦労話とか楽しさを紹介してもらおうと考えています。少し盛りだくさんの内容の講演会となりましたが、どうぞ最後までお付き合い下さい。
本年は奈文研が飛鳥地域の発掘調査に着手してから60年の節目の年にあたります。飛鳥における最初の発掘調査は、昭和31年に行われた「飛鳥寺」の発掘調査です。この学史に残る発掘調査からちょうど60年が経過しました。果たして、その後の60年で、飛鳥・藤原地域における古代国家誕生の歴史の解明がどのように進展したのか、本日の講演会を通して、古代史研究の魅力を堪能していただけましたら幸いです。

本書は、2016年11月13日に一橋大学一橋講堂にて開催した奈文研第8回東京講演会「飛鳥むかしむかし」の記録集ですが、当日の講演内容を基に各講演者が大幅に加筆修正し、書籍としての体裁を整えました。書籍名も朝日選書との重複を避けて、『飛鳥・藤原京を読み解く 古代国家誕生の軌跡』としました。どうぞ飛鳥・藤原研究の最新成果をご一読ください。