灯明皿と官衙・集落・寺院
奈良文化財研究所では、毎年12月に古代官衙と集落に関する研究集会を開催しています。この研究集会は、律令国家を構成するさまざまな遺跡、遺構、遺物を対象に、毎年一つのテーマを設定し、全国の官衙や古代集落に関心のある研究者が一堂に会し、さまざまな角度から掘り下げる学際的な研究集会です。昨年で23回を数えるに至りました。
昨年の研究集会では「灯明皿」をテーマに取り上げました。灯明皿は使用痕跡が明瞭に残ることから、従来調査や整理作業の過程で注意されてきましたが、その使用実態や歴史的位置づけについて広く議論される機会が少ない遺物でした。今回の研究集会は、全国規模で古代の灯明皿を取り上げる初めての試みでした。
研究集会では、都城や各地の官衙、集落、寺院から出土する灯明皿の組成や遺構との関係、使用痕跡の観察をふまえた実験の成果など、多岐にわたる研究報告がおこなわれました。また討論では、灯明皿の使用場面の復元、出土する遺跡の性格、古代から近世に至る変遷など、さまざまな議論が交わされ、さらには各地域で専用灯火器の存在が初めて明らかになるといった今後の研究の展開が期待される大きな成果を挙げることができました。
この度、その研究成果をまとめた研究報告が完成し、皆様にお届けできる運びとなりました。本書の執筆に当たられました研究報告者をはじめ、研究集会に参加された皆さまに厚く感謝申し上げるとともに、本書が今後の研究の火付け役として広く活用されますことを期待しています。
奈良文化財研究所は、これからも古代官衙・集落遺跡の調査研究から古代国家や社会の歴史的特質を明らかにするべく、さまざまな研究課題に対して全国の研究者と連携しながら、本研究集会を継続したいと考えています。
今後とも古代官衙・集落研究会の活動に対しまして、皆様のご支援とご協力を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。

2020年12月
独立行政法人国立文化財機構
奈良文化財研究所長
松村 恵司