Glia細胞
1.Glia 細胞の分類―その現段階
組織学用語41)で神経膠[ラテン語:Neuroglia]の名で一括されているものは、その所在が中枢神経内にかぎられるもの末梢神経内にかぎられるものとに大別され、前者は中枢性膠細胞[Gliocytus centralis]、後者は末梢性膠細胞[Gliocytus periphericus]と呼ばれている。
中枢性膠細胞はさらに細分され、星状膠細胞[Astrocyticus]、希突起膠細胞[Oligodendrocyticus]、小膠細胞[Microglia]の3者と脳室壁を覆う上衣細胞[Ependymocytus]にわけられている。これに対して、末梢性膠細胞は神経節膠細胞[ Gliocytus periphericus ganglii]と鞘細胞[ Schwann][Neurolemmocytus]および終末膠細胞[Gliocytus terminalis]とに区別されている。
これらのなかで通常“グリア細胞”と呼びならされているのは、星状膠細胞と希突起膠細胞および小膠細胞の3者で、数的にも圧倒的に多数である。
これらはそれぞれの細胞体からでる突起の形態の違いによって、形質性星状膠細胞[Astrocytus protoplasmaticus]線維性星状膠細胞[Astrocytus fibrosus] 大膠細胞(マクログリア)希突起膠細胞[Oligodendrocytus]小膠細胞[Microglia] 小膠細胞(ミクログリア)に分類されているが、前3者の細胞体、ことに核が大きいことから大膠細胞(マクログリア、macroglia)として一括され、それよりも小型のミクログリア(microglia)と対比される場合が多い。
機能的には、星状膠細胞(astrocyte)は中枢神経系内のいわば結合組織の役をはたす一方で、血管とニューロン(neuron、神経細胞)との間に介在して物質代謝に関与する。脳内に病変が生じた際には増殖・肥大してglia線維を増加させ、その修復に寄与する。希突起膠細胞の主な機能はニューロンの軸索の周囲に髄鞘を形成することであるが、末梢神経の鞘細胞(Schwann)と軌を一にするほかに、ニューロンの衛星細胞(satellite cell)として物質代謝にも参加すると考えられている。これに対して、microgliaは脳に病巣を生じた場合に目立つ存在で、食細胞能および食血球能を発揮して病的産物の清掃にあたることから、中枢神経系内細網内皮系と考える人もいる。
発生学的にはmacrogliaはニューロンと同じく外胚葉性で、発生初期の神経管の上衣細胞から分化したもの(図1)27)であるが、microgliaの場合は外胚葉に由来するとみなす神経膠細胞1元論と、血管壁すなわち中胚葉性に起源を求める2元論とがあって、鋭く対立している。このことは、本書のなかでも見られる通りである。
上衣細胞は脳室壁を覆うといっても場所によってその性状を異にする。
大部分は円柱上衣細胞[Epedymocytus columnaris]であるが、脈絡叢の脳室面を覆う腺細胞様に分化したものは脈絡叢上衣細胞[Ependymocytus chorioideus]、線毛の顕著なものを線毛上衣細胞[Epedymocytus ciliatus]、脳の特定の場所、例えば視床下部などで軟膜直下まで伸びる長い尾のような突起をもつものを有尾上衣細胞[Epedymocytus taeniatus、tanycytes]などと呼んで区別する24)。また、いろいろな動物で特異的に発達している脳室周囲器官、例えば魚類の血管嚢、脊椎動物に広く見られる交連下器官なども上衣細胞の分化したものである。
以上が今日ニューログリア(以下glia細胞と記)の形態および機能について知られていることの大綱12、13、25、31、32、34、43〜46、54、58、65)であるが、これらの知識がこのように整理されるまでには、これらを検索する技術の変遷をからめてけっして平坦なものではなかった。その歴史的経過については、主としてその形態学的側面と血液脳関門との関係からその大筋をたどってみることにしよう。(以下本文へ)