ブレインサイエンス・レビュー2004
本書に収められた論文は第一線の若手の研究者により、自らの研究成果を中心に関連する領域についてわかりやすく解説したものである。16編の論文のうち前半は「脳神経系の分子・細胞過程」と題して、次々に発見される新しい分子群の神経系における役割を中心に、後半は主として神経疾患の病態とその治療法に関連したものである。本書によりわが国の脳研究における先端のトピックスについて最新の情報が得られるものと期待する。以下にその内容の一端を紹介する。神経や血液などさまざまな細胞の起源となる幹細胞を用いた再生治療の研究は大きく進展しつつある。岡野栄之は神経幹細胞が多分化能により種々の神経細胞を作り出すことができ、また増殖し継代を繰り返すことができる自己複製能をもつことに着目し、損傷した中枢神経組織の修復を目指した研究を精力的に推進している。岡野はかつてショウジョウバエを用い遺伝子工学的手法により神経発生に関わる新規の制御因子の探索を行い、この過程で神経前駆細胞の非対称性分裂の制御因子であるRNA結合蛋白質Musashiを同定した。さらに、この哺乳類ホモログのMusashi1 が、じつは神経幹細胞に強く発現する選択的マーカーであることを発見し、Musashi1 を用いて成人脳内にも神経幹細胞が存在することを明らかにした。岡野はこの成果に基づき、幹細胞が成人中枢神経系において再生能力が低い理由の解明や神経系の機能再生を起こすための条件を検討することを目標に中枢神経系の再生医学的研究を始めた。岡野らはnestin-EGFPというレポータ遺伝子を開発し、神経幹細胞を生きたまま同定し、セルソータにより分離することに成功した。この系を用いることにより胎児中脳腹側部から神経幹細胞を分離し、脳内に移植することによりパーキンソン病モデル動物の機能修復を確認した。また、Musashi1 がNotchシグナルの活性化を介して、神経幹細胞の自己複製能を高めることができることを明らかにした。さらに最近ラットの脊髄損傷に対する神経幹細胞移植に成功し、これをもとにヒト胎児由来の幹細胞移植をサルに適用し、機能回復をもたらすなど臨床応用に一歩近づけた。このように岡野らの研究は再生医学のなかでももっとも注目を集めている分野である。これらの研究成果によって岡野は第15回塚原仲晃賞を受賞した序文 本書に収められた論文は第一線の若手の研究者により、自らの研究成果を中心に関連する領域についてわかりやすく解説したものである。16編の論文のうち前半は「脳神経系の分子・細胞過程」と題して、次々に発見される新しい分子群の神経系における役割を中心に、後半は主として神経疾患の病態とその治療法に関連したものである。本書によりわが国の脳研究における先端のトピックスについて最新の情報が得られるものと期待す
る。以下にその内容の一端を紹介する。神経や血液などさまざまな細胞の起源となる幹細胞を用いた再生治療の研究は大きく進展しつつある。岡野栄之は神経幹細胞が多分化能により種々の神経細胞を作り出すことができ、また増殖し継代を繰り返すことができる自己複製能をもつことに着目し、損傷した中枢神経組織の修復を目指した研究を精力的に推進している。岡野はかつてショウジョウバエを用い遺伝子工学的手法により神経発生に関わる新規の制御因子の探索を行い、この過程で神経前駆細胞の非対称性分裂の制御因子であるRNA結合蛋白質Musashiを同定した。さらに、この哺乳類ホモログのMusashi1 が、じつは神経幹細胞に強く発現する選択的マーカーであることを発見し、Musashi1 を用いて成人脳内にも神経幹細胞が存在することを明らかにした。岡野はこの成果に基づき、幹細胞が成人中枢神経系において再生能力が低い理由の解明や神経系の機能再生を起こすための条件を検討することを目標に中枢神経系の再生医学的研究を始めた。岡野らはnestin-EGFPというレポータ遺伝子を開発し、神経幹細胞を生きたまま同定し、セルソータにより分離することに成功した。この系を用いることにより胎児中脳腹側部から神経幹細胞を分離し、脳内に移植することによりパーキンソン病モデル動物の機能修復を確認した。また、Musashi1 がNotchシグナルの活性化を介して、神経幹細胞の自己複製能を高めることができることを明らかにした。さらに最近ラットの脊髄損傷に対する神経幹細胞移植に成功し、これをもとにヒト胎児由来の幹細胞移植をサルに適用し、機能回復をもたらすなど臨床応用に一歩近づけた。このように岡野らの研究は再生医学のなかでももっとも注目を集めている分野である。これらの研究成果によって岡野は第15回塚原仲晃賞を受賞した