脳を知る・創る・守る・育む 6
脳の研究も十年の、いわば助走というとちょっとおかしいのですが、最初の段階を経て、いよいよ高いレベルで進みだしたという点をぜひ知っていただきたいと思います。
また、本シンポジウムでは、冒頭に、直接脳の研究者でない方においでいただき、脳あるいは脳の研究が、人間にとってどのような意味をもつか、社会にとって、文明、文化にとって、どんな意義があるのかという、大所高所からのお話をお願いしてきました。今回は、たいへん幸いなことに、小説家として高名な加賀乙彦先生においでいただくことになりました。以前から、何度もお願いしてきたのですが、作家活動に専念しておられ、なかなか機会が得られませんでした。
今回、誠に幸運なことに機会を得ることができました。
加賀先生は、昭和二十八年に東京大学医学部を卒業されました。私と同級生です。精神医学、犯罪学を専攻しておられましたが、作家活動、小説に興味をもたれ、三十六歳で小説を書きだされたそうです。その一方で、精神医学や犯罪学の面で専門家としても活動をされ、四十九歳まで精神医学の教授として上智大学で教えたり、研究をしておられました。
四十九歳をすぎてから作家活動に専念され、非常に重厚な作品を発表されていることは、皆さまよくご存じのことと思います。精神科医としてのいろいろな体験をベースにされておりますが、戦争体験、宗教の意義についても本格的な取り組みのできる、非常に珍しいというとおかしいのですが、本格的な長編作家として、世によく知られておられます。本日は、精神医学の立場も踏まえて、脳の研究にどんな意味があるのかということを、大所高所から、われわれにも教えていただきたいと思っている次第です。
どうぞ、ご清聴をお願いいたします。