第12回「大学と科学」植物の生長−遺伝子から何が見えるか−
種子は重要な食糧源のひとつです。乾燥した種子に液胞が存在するのか疑問をもたれるかもしれませんが、種子中には、貯蔵蛋白質を蓄積している顆粒があり、これが液胞と密接な関係にあります。種子を中心に液胞の分化について説明します。
液胞とは
本題にはいる前に、葉の代表的な細胞について簡単に説明しておきます。生物の基本単位である細胞は、いろいろな細胞内小器官や構造体から成り立っています。図1 は、カボチャの緑化子葉の細胞の電子顕微鏡写真です。
中央の大きな空胞の部分が液胞で、その周辺に核や葉緑体があります。液胞には、細胞内で不要になった老廃物の処理工場というイメージがありますが、それだけではありません。
液胞は、植物細胞に特徴的な構造体として古くから知られていますが、植物の生命活動に直接関与しない後形質のひとつとしてあげられてきました。このような液胞が最近脚光を浴び始めたのは、植物の生長や分化に応じて液胞自体が形態だけでなく、機能的にも大きく変動する能力を備えていることがわかってきたためです。このことは、種子の液胞をみるとよく理解することができます。
健康食品として注目されているダイズをはじめとして、さまざまな植物種子が私たちの貴重な食糧源となっています。なかでも重要視されているのは種子の貯蔵蛋白質です。種子の細胞を微分干渉顕微鏡で観察すると、内部に多数の顆粒が認められます(図2)。この顆粒は貯蔵蛋白質を多量に含んでいるため蛋白質顆粒と呼ばれてきましたが、液胞と密接な関係があります。ここでは、液胞と蛋白質顆粒との関係と、若い細胞と老化して死を迎える細胞の液胞内で起こっている現象について分子レベルで説明することにします。
液胞から蛋白質顆粒へ、そしてふたたび液胞へ
カボチャの乾燥種子をみると、子葉細胞の内部に多数の蛋白質顆粒が観察されます。この顆粒が貯蔵蛋白質の貯蔵庫です。図3 はひとつの蛋白質顆粒を模式的に表したものです。
蛋白質顆粒は、単位膜に覆われており、なかに主要な貯蔵蛋白質である11S グロブリンの結晶構造体クリスタロイドがひとつあります。クリスタロイドの周りには、2S アルブミンなどの水に溶けやすい蛋白質がつまっています。
この蛋白質顆粒は、種子の登熟過程でどのようにしてできてくるのでしょうか。図4 は、受粉後10 日目から食べごろになるまでのカボチャの種子とそのなかで生長している子葉を示しています。種子の殻は受粉後の初期から形成されていますが、子葉はこの過程で大きく生長してくることがわかります。種子の登熟過程を前期・中期・後期にわけ、それぞれの時期の子葉から液胞を単離し、その形態変化を調べてみました(図5)。(以下本文へ)