第14回「大学と科学」生殖細胞−その誕生と振る舞い−
はじめに
私は本シンポジウムの企画に携わった関係で、最初に、この企画の背景となった文部省科学研究費・特定領域研究について簡単に説明します。
特定領域研究とは、わが国として学術的に重要な領域を振興するため、その領域の研究者とグループに対して手厚い研究費を与えるシステムです。私どもは『生殖細胞の成立と減数分裂移行の分子メカニズム』というテーマで、平成7 〜 10 年度までの4 年間、研究費をいただき研究を続けてきました。研究に携わったのは次の2 班です。第1 班は「生殖細胞の成立の分子機構」で、班長を基礎生物学研究所の長濱嘉孝先生が務められ、第2 班の「減数分裂の特性とその制御」の班長を私が務めました。さらに、このような研究班が研究費を無駄に使っていないか、研究は進展しているか、ということをチェックするお目付役である総括班があります。今年度は研究成果をとりまとめる年度になっていますが、これまでの研究で得られた研究成果をもとに、さまざまなお話をこれからご紹介いたします。
本シンポジウムでは、第1 ・第2 の班員の先生方や総括班の先生方にご講演と司会を務めていただいて進めていきます。ただし、渡辺憲二先生、岡田清孝先生、そして田幸雄先生は、私どもの研究グループには直接所属されていませんでした。しかし、同じ領域の研究者として“助っ人”となっていただき、シンポジウム全体の内容を膨らませていただきます。
私どもの行っている研究は基礎的なものです。生殖細胞を理解することは、われわれの生命の本質を理解することに通じますし、どうして地球上にこのように多様な生き物がいるのかを理解することにも通じます。
この重要な領域で、最近、さまざまなことが明らかになってきましたが、まだ不明な点が非常に多いことも事実です。本シンポジウムでは、現在、どのようなことが明らかになり、どんな重要なことが解明できていないのかを、ご理解していただくことが第1 の目的です。また最近、生殖細胞というと、マスコミなどではすぐにクローンの話題とむすびつけて議論することが多くなっていますが、そのような技術を考えるうえでも基礎研究がたいへん重要であることをご理解いただければと考えています。
そして、生殖細胞に関する研究は、最終的には人間の生殖の問題などにも関係してくる12 さまざまな生物で生殖細胞がつくられる仕組み酵母にみる生殖細胞の起源山本 正幸東京大学大学院理学系研究科教授ことから、クローン技術で先端的な研究をされておられるハワイ大学の柳町隆造先生に、無理をお願いして参加していただきました。
さらに、科学と社会の接点について発言を続けておられる三菱生命科学研究所の米本昌平先生にも、やはり特別講演をおひきうけいただきました。
プログラムの最後のパネルディスカッションでは、私どもが進めているような研究を、もう少し大きな観点から、どのようにみていくのかということを討論する予定で、不妊症医学の立場から山形大学の廣井正彦先生にも参加していただくことになっています。
生物の系統樹と酵母の位置づけさて、生殖細胞を研究するグループでありながら、なぜ、私のような酵母を研究している者がそのとりまとめ役を務めているのか、皆さんは奇異に思われるかもしれません。この点について最初に説明することにします。(以下本文)