第14回「大学と科学」分子がつくるナノの不思議
高分子がつくるミクロ相分離構造は10 〜100nm レベルの構造で、ブロック共重合体が形成する高分子に特有の世界です。まず、新分野を開拓するブロック共重合体として、どのようなものが合成できるかという点について触れ、次に、それらが形成するミクロ相分離構造について述べます。このミクロ相分離構造はバルク中でも起こりますが、物質表面でも興味深い挙動を示し、特殊な機能を発揮することについても説明します。最後に、高分子の片末端や両末端にのみ官能基をもつテレケリックポリマーと、そのような小さな機能をつけるだけで大きな分子量をもつ高分子には自己集合する力があることを紹介します。
ブロック共重合体の構造と特徴高分子は小さな分子が連なった鎖状の構造をもっています。そのなかで、A、B 2 種の繰り返し単位からなる共重合体では、それらがランダムにつながるランダム共重合体、ABAB……と交互に繰り返してつながる交互共重合体、およびブロック状につながるブロック共重合体があります(図1A)。このブロック共重合体においては、それぞれのセグメント鎖長と体積比に対応して、ミクロ相分離を起こし(図1B)、ナノメートル規模の球、シリンダー、ラメラなど種々の構造体を形成します(図1C)。
これらのミクロ相分離構造は、合成高分子の典型的なナノメートル規模の高次構造のひとつであり、重合反応における構造制御が進歩すれば、さらに多様なナノ構造体の形成が可能になると考えられています。
ちなみに、2 種類の異なるセグメントでできているのが従来のブロック共重合体ですが、最近、3 種類のセグメントからなるブロック共重合体も設計通りにできることが明らかになりました。2 種類あるいは3 種類の異なる部分がつながったとき、互いに混合することを避けるために、ある構造を形成することになります。
つまり、前述のように、A、B の両体積がほぼ同じ分量である場合は、ラメラ状構造つまりサンドイッチのような相構造に分離します。
それに対して、一方が体積的に少ないと、シリンダー状になり、さらには球状に分離します。そして、その中間には複雑な共連続構造を形成することもわかっています。
ナノ分子をつくる
高分子がつくるナノの世界ミクロ相分離中浜 精一東京工業大学大学院理工学研究科教授ポリスチレン−ポリイソプレン−ポリスチレントリブロック共重合体の構造と特性よく知られているものにポリスチレン(S)-ポリイソプレン(I)-ポリスチレン(S)からなるトリブロック共重合体があります。それは、S-I-S のブロックシーケンスをもち、かつポリスチレンが球状構造をとるもので(図1C)、熱可塑性エラストマーとして工業的に大量に生産されており、現在その需要はさらに増大しつつあります。そのミクロ相分離構造は、軟らかなポリイソプレンがマトリックスとして全体に海をつくり、その海に硬いポリスチレンの島が浮かんで物理的な架橋点となり、エラストマーが形成されます。(以下本文へ)