第16回「大学と科学」宇宙を探る新しい目−重力波
アインシュタインが予言した「重力波」とは?
藤本 眞克
国立天文台位置天文・天体力学研究系教授
重力波とは、アインシュタインが一般相対性理論に基づいて予言した重力の波です。私のあとに重力波をとらえるためのさまざまな試みが紹介されますので、予備知識として聞いていただきたいと思います。
重力とは
私たちは地上に住んでいて常に重力を感じています。この重力は、エレベーターのなかの世界ではどのようになるのでしょうか。
人類は、宇宙空間に飛びたつようになりましたが、宇宙空間では無重力の状態にあります。ここで、重力の働いていない状態と重力が働いている状態の違いを考えてみます(図1)。普通に無重力というと、人や人がもっているリンゴやコップが浮いているような状態です(図1A)。地上ではエレベータのなかでリンゴやコップから手を離せば落下します。私たち自身は重力をうけて床にたっています(図1C)。一方、宇宙空間で、エレベーターが一定の加速度で引っ張り上げられている(等加速度運動をしている)場合を考えてみます(図1D)。そのとき、手から放したリンゴは落下します。つまり、重力が働いている場合と、重力は存在しないが等加速度運動をしている場合は、そのエレベーターのなかでみるかぎり、同じ法則にしたがいます。リンゴが落下したり、私たちが床から圧力を感じることは同じであるというのが等価原理です。一方、重力があっても、重力が働かない世界が無重力状態です。例えば、エレベーターの綱が切れて自由落下という重力で落下しているときのエレベーターのなかでは、力をまったく感じない無重力状態になります(図1B)。このように、エレベーターのなかだけでみた場合、重力は現れたり消えたりします。そのことを手がかりにアインシュタインは、重力理論を構築しました。ちなみに、自由落下運動とは重力だけが作用している運動のことです。つまり、重力に逆らって圧力や力を加えない運動のことです。
モンキーハンティングというゲームがあります(図2)。木にいるサルをピストルで狙い、弾を発射したと同時にサルは手を放して木から落ちるとします。地上ではピストルの弾に重力が働いているため、弾は放物線運動を描くことになり、サルも同時に木から落下するので弾にあたるという現象です。きちんと狙いを定めて撃ち、弾の発射と同時にサルが落ちれば、必ず命中します。これは、一見、不思議にみえる現象です。しかし、全体をエレベーターとみなして、エレベーターの綱が弾の発射の瞬間に切れた自由落下系としてみると、サルもピストルの弾も一緒に落下しており、全体としてはなにも力が働いていない状態となります。ピストルの弾は初速にしたがってそのまま等速直線運A動をします。つまり、まっすぐサルに命中するということです。(以下本文へ)