第17回「大学と科学」動物の形作り−その最前線と新展開
器官形成のしくみを探る

浅島  誠
東京大学大学院総合文化研究科教授

 これまでに、魚類、両生類、鳥類、哺乳動物などの発生について説明されてきましたが、私たちヒトを含めて動物の体はさまざまな器官から構成されています。それらの器官の集合体としての個体は、どのようなメカニズムで統一された形づくりをするのでしょうか。もともと1個の受精卵が発生・分化を繰り返して胎生期、幼生期になるとよく似た形態となるため、なんらかの共通のシステムがあると考えられます。また、発生が進むと多様な器官が形成されますが、それぞれが共通の器官をもつことからも、形づくりと器官形成をどのように考えればよいのかが問題になります。私は、両生類であるカエルやイモリなどの胞胚期のアニマルキャップ(未分化細胞塊)を用いて、器官形成の仕組みについて研究しています。
 1個の受精卵から発生が進んで胞胚期になると、細胞数が約8000個になりますが、その時期に動物極の近傍にアニマルキャップが形成されます(図1)。脊椎動物では、発生過程においてある特定部位に未分化細胞を残しており、哺乳動物の胚性幹細胞(embryonic stem cell;ES細胞)もそのひとつですが、アニマルキャップを採取して、アクチビンで処理することで、試験管内で生体で起こる器官形成の機序を探っています。私どもは、BMPなどと同じ形質転換の成長因子の仲間のアクチビンで処理して、濃度依存的にさまざまな器官や組織の分化誘導に成功しています。低濃度の血球や体腔内上皮、中濃度では筋肉、高濃度では脊索を分化誘導します。さらに高濃度にすると拍動する心臓や小腸、肝臓といった内胚葉性の器官も分化誘導します。現在までに、私どもは未分化細胞から15種類の器官や組織をつくることに成功しています(図2)。ここでは、軟骨と心臓、腎臓と眼の話を中心に最近のデータをまとめながら紹介します。