第17回「大学と科学」星の誕生−天の川、マゼラン銀河、そして私たち
マゼラン銀河に星の誕生をさぐる

長谷川哲夫
国立天文台電波天文学研究系教授

 私たちの歴史を逆にたどっていくと、私たちの先祖から地球上の生き物の進化、地球の誕生となっています。地球は太陽とほとんど同じ時期に誕生しました。つまり、星のひとつである太陽の誕生は、私たちの歴史のおおもとの出来事であるということができます。この星の誕生について理解することは、私たちの歴史を宇宙的な枠組みのなかでとらえることにつながります。そのような気持ちで、本シンポジウムの話を聞いていただければと思います。

星の誕生は宇宙の物質進化の原動力

 星の誕生は、宇宙の研究においてどのような意味をもっているのでしょうか。星の誕生は、宇宙に存在するさまざまな物質が進化するときの原動力となっています(図1)。宇宙は約150億年前のビッグバンで始まりましたが、その直後からかすかにゆらぎができ、そのゆらぎが成長して、私たちの天の川銀河などの種になる原始銀河が形成されました。この原始銀河のなかで星が誕生します。
 誕生した星は、やがて一生を終えて死に至りますが、星が死ぬとき、その星がもっていた物質の大部分を星間空間に戻します。戻された物質は、次の世代の星を形成する材料になります。ここに大きな物質循環、あるいは輪廻が回り始めます。星が誕生するのと同じように、地球のような惑星も誕生します。そして、星が誕生してから死ぬまでの過程で、星のなかでつくられ蓄えられた炭素や酸素、鉄などの物質が星間空間にまき散らされていき、宇宙のなかの物質が進化していきます。
 宇宙の物質が進化したその先に、今、私たちがいます。私たちの体にも炭素や酸素、鉄、骨となって体を支えるカルシウムなどが存在しています。それらはすべて、この星の誕生と死の循環によって形成され、太陽が誕生するときに太陽の周りの地球に集まってきたものです。私たちの体は星の灰でできているわけです。その意味で、私たちは星の子どもであるということができます。物質の進化をつかさどる大きな原動力が、星の誕生です。

星の誕生をみる

 星が誕生するとき、どのようなことが起こるのでしょうか。そのことは、1980年代からさかんに観測され、かなり明らかになってきました。星が誕生している現場を、図2左に示します。これは、夏の星座で、さそり座のアンタレスと、その北側に、へびつかい座が広がっており、赤い星雲や黄色い星雲、青い星雲の間に挟まれて黒い領域がみられます。この領域には星雲や星がないわけではありません。そこには背景の星からの光を隠す暗黒星雲が存在しているため、光では暗くしかみることができないのです。しかし、その領域を、低温の物質が放射する波長数mmの電波をとらえる電波望遠鏡で観測すると、光る雲のような物質が存在していることがわかります。図2右は、野辺山の45m電波望遠鏡で観測した、へびつかい座暗黒星雲の姿です。このような自分では光を放たないほど低温の星間雲が星を形成する材料になります。
 図のなかに○や+や☆で示したように、現在、誕生しかかっているか、数十万年から数百万年前に誕生したばかりの星がたくさん存在しています。このように、星は暗黒星雲や星間雲のなかで誕生します。